代理出産はクーリングオフできる?合理的な考えを突きつける『燕は戻ってこない』
反論が難しい合理的な考え
他人を軽く考えているのは草桶親子だけではない。リキの同僚で、生活苦のために風俗で副業しているテルこと河辺照代(伊藤万理華)の3話での発言もなかなか印象的。リキは代理母になることが決まったことをテルに報告するが、その中で「男に優しくされたことない。愛とかこのまま一生知らないかもしれない」と男性から愛された経験がないにもかかわらず、妊娠出産をすることになりそうな現状を吐露。 するとテルは「とりあえずプロに頼まない?」「愛はプロに頼めるんだよ?」と女性用風俗の利用を勧める。続けて、「風俗の友達、みんな買ってるよ。ホスト通うみたいなもの」「風俗で自分が買われてる子はそうやって憂さ晴らしするの。買われたら買い返す」「男は女を簡単に買うんだから女だっていいんだよ」と背中を押した。 草桶親子やテルの発言からは、「お金を払えば他人の性を“買う”ことは問題ない」という認識が伺える。確かにお金で性を売買することに双方が合意していれば、基の言う通りWin-Winなのかもしれない。ただ、倫理観というフィルターを通すと違和感を覚えてならない。なにより、リキや恐らくテルの風俗で働く友達も経済的に困窮しており、好き好んで性を売っているわけではない。経済事情により売らざるを得ない状況を追い込まれていることを鑑みると、やはり彼らの“合理的”な考え方には賛同し兼ねる。 とはいえ、基が「俺達のほうが代理母にとっても幸せなんじゃないか?」と問いかけた基に、悠子は明確な説得ができずに代理出産を利用することを決めていた。このシーンを見てわかる通り、こういった合理的な意見を説得することは難しい。恐らく、今後も倫理観的に違和感を覚えるものの、どう反論して良いのかわからないケースに多く直面することが予想される『燕は戻ってこない』。言い返すことが難しい恐ろしいほどの“合理性”にどのように登場人物が対峙するのか注目したい。
望月 悠木