『Disco Elysium』の元開発による新たなスタジオ“Summer Eternal”が設立を発表。アーティスト集団としてゲーム作りを続けるための宣言を公表
世界的に高い評価を受けたRPG『Disco Elysium』の元開発メンバーによる新たなスタジオ“Summer Eternal”の設立が発表された。同作を開発したZA/UMの流れをくむスタジオとしては、正式に発表されたもので3つ目、存在が確認されているおそらく今後始動するだろうものを含めると4つ目となる。 このスタジオは、『Disco Elysium』のライター陣のArgo Tuulik氏やOlga Moskvina氏、そしてトレイラーのナレーションを担当したLenval Brown氏らによって設立。発表にあたって公式サイトでは、まずこのスタジオがどうやっていくかについての複数の声明が発表されている。 そこで語られている内容をまとめると、これは“アーティスト集団として始まるも最終的に企業体としての資本主義的論理に侵食されてしまったZA/UMを再構築する試み”だと言えるだろう。つまりほかのスタジオが『Disco Elysium』の精神的続編の開発を宣言しているのに対し、Summer Eternalは恐らくZA/UMという組織が持っていた理想そのものの精神的な後継としてゲーム作りを続けていくことを目指しているのだ。 具体的には、フルタイムで関わるメンバーの協同組合(Summer Eternal株式の50%が割り当てられる)、パートタイムで関わるメンバーの協同組合(同25%)、投資家の出資先にあたる有限会社(同20%)、ゲームを所有するプレイヤーによる非営利団体(同5%)の4つの団体に対して責任を持つ会社としてSummer Eternalを構成し、取締役会による議決権ベースの意思決定を行いながらクリエイティブ面の追求を行っていくようだ。 この背景を説明しておくと、そもそもZA/UMとは元々エストニアのアーティスト集団として存在しており、その後に小説家であったRobert Kurvitz氏のゲームのアイデアを実現するためにゲーム会社としてのZA/UMが組織されたと言われている。その後完成した『Disco Elysium』は批評面・セールス面双方で圧倒的な成功を収めたものの、やがてエグゼクティブプロデューサーたちがKurvitz氏らコアのクリエイター陣を解雇する騒動となり、法廷闘争にまで発展。Tuulik氏らが継続していたスピンオフ的な新作も開発中止され、人員整理が行われたという。 これはいわばアーティスト集団としてのZA/UMや『Disco Elysium』自体が批判的に扱っていたはずの商業的・市場的な論理に作り手が負けてしまった形なのだが、ここにゲームが商業製品としてもインタラクティブな芸術作品としても存在しうる難しさがある。 たとえばヒットしたらもっとお金をかけてとにかく次の作品を出して儲けるのは必然と考える人もいると思うが、それは“製品”としてのゲームの論理であって、アーティストの“作品”としては必ずしも自明ではない。一方でゲームは多くの人が集まって時間とお金をかけて作業しないとなかなか完成しないという実情もある(これはSummer Eternalの設立趣旨でも触れられている)。 Summer EternalはこのようなZA/UMの顛末を受けた上で、アーティスト集団としてどのようにゲーム作りを続けていけるかの模索なのだろう。「反資本主義みたいな政治思想が入るのはちょっと」と思う人もいるだろうが、そもそもの『Disco Elysium』が先述したような背景を持つ作品であることもあり、記者としてはどんな作品が飛び出てくるのか非常に楽しみにしている。 まだまだあるぞ、元ZA/UM系スタジオ さてついでなので、ここに来て立て続けに発表された他のスタジオについても振り返っておこう。まず『Disco Elysium』や開発中止されたその続編プロジェクトに参加したメンバーが複数関わっているというLongdueが設立を発表し、「プレイヤーの決断がキャラクターの心理だけなく周囲の環境にも作用する」というメカニズムを持つ『Disco Elysium』の精神的な続編を開発することを公表している。 またこれに合わせて、『Disco Elysium』のエグゼクティブプロデューサーだったKaur Kender氏が設立に関わったDARK MATH GAMESが、『XXX Nightshift』なる新作のティザー映像を公開。モーショングラフィックアーティストのTimo Albert氏らが参加しているとされ、ティザー映像もかなり『Disco Elysium』っぽいものとなっている。 DARK MATH GAMESの公式サイトがロゴのみの簡素な内容だったり、Summer Eternalの公式サイトが当初10月14日発表の体裁になっていたことから、恐らく金曜日の前後に彼らの前所属であるZA/UMに関連したNDAか何かの縛りが解け、Longdueの発表を受けて立て続けに動いた形なのだろう。 そしてそもそもの発端を担った『Disco Elysium』リードライター兼リードデザイナーのRobert Kurvitz氏とリードアーティストのAleksander Rostov氏らはRed Infoというスタジオを設立し、準備を進めているとされている。 ちなみに、彼らが離れた大元のZA/UMそのものも解散したわけではなく健在だ。『Disco Elysium』はゲームの映画・ドラマ化を専門とする製作会社のdj2 Entertainmentがドラマシリーズ化の権利を取得したことが2020年に発表されている。