急速に普及したリチウム電池、発火リスクの対策追い付かず 広島県福山市ではリサイクル工場火災 収集・資源化の仕組み不可欠
広島県福山市のリサイクル工場(箕沖町)で火災が起き復旧の見通しが立っていない問題で、市は発火源の候補にリチウムイオン電池を挙げる。急速に普及して多くの小型家電に使われるが、発火リスクへの対策が追いつかず全国のごみ処理現場で火災を引き起こしている。専門家は、消費者のごみ出しから最終的な再資源化まで一貫した仕組みづくりの必要性を訴える。 【写真】火災が起きたリサイクル工場のごみピット(福山市提供)と、分別方法の変更を伝えるチラシ 同工場の火災は11月2日未明に発生。不燃ごみをためるピットから出火し、中央制御室やクレーン操作室にも延焼した。発生から約1カ月半たつが、被害の調査は数カ月続く見通し。被害額や復旧の見込みなどの詳細は判明していない。 事態を重く見た市は、今月からリチウムイオン電池を使った小型家電を独立して別の袋で収集する方法に変更。電池を取り外せない小型家電について、区分を月1、2回収集する「不燃ごみ」から年4回の「燃やせる粗大ごみ」にした。収集後は民間事業者が電池を取り外して処理する。 「さまざまな小型家電に使われ、ごみの出し方に迷う。分かりやすい分別が必要と考えた」と市環境総務課。自治会を通じて周知し、各地区のごみステーションにチラシを張り出した。市内の環境センターなどへの持ち込みのほか、民間の宅配回収サービスの利用も呼びかける。高額の復旧費用などを踏まえ「自分たちのまちに与える損失も考え、ルールを守ってほしい」とする。 環境省の2022年度の全国調査によると、リチウムイオン電池を主な原因とする施設や収集車の火災は281市区町村で発生。同省の23年度版の対策集では「市区町村だけでは課題解決に至らない」とし、メーカーなどの関係者を巻き込んだ議論の必要性を挙げる。 動きはある。早稲田大理工学術院の所千晴教授(資源循環工学)は昨年度、「小型リチウムイオン電池の安全・安心な処理フローの追求」を東京都に提案。都の事業に選ばれ、3年かけて課題の解決に取り組む。一般ごみとは別に電池ごみの回収ルートを構築▽家庭ごみへの混入を想定し、処理場での安全な選別▽資源循環ルートの確立―を掲げる。 分別回収を分かりやすく都民に伝え、選別に人工知能(AI)を活用。プラスチックや銅、リチウム、コバルトなどの資源循環のサプライチェーン(供給網)を目指す。 所教授は「一部ではなく、消費者から最後の処理をする事業者まで一気通貫の取り組みが必要」と強調。取り外しのできる製品作りなど、製造時から資源循環を意識する国内メーカーの存在も挙げ「単に廃棄物処理だけの話ではない。持続可能な開発目標(SDGs)の視点を絡めて資源について考えてもらうなど、啓発も重要だ」とする。
中国新聞社