歯科での画像診断 的確で効率良い治療が迅速に/医学博士照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<18> 1895年、ドイツの物理学者ヴィルヘルム・コンラート・レントゲンがエックス線を発見しました。エックス線は電磁波の一種で、0・01~10ナノメートルの範囲にある短い波長なのですが、物質を透過する際に生じる相互作用を利用した技術です。人体にエックス線を当てると内部構造が可視化できることがわかり、以後、医学だけでなく、工学などさまざまな分野で応用されるに至りました。 現代の歯科医療では、診断のために放射線による画像撮影を行うことがスタンダードになっています。こうした技術が発達する前は、歯科医師の経験値や勘といった、数値で表せない曖昧な基準で診断せざるを得ない時代があったのですが、文明の進化によって、的確で効率の良い治療が迅速に行えるようになりました。人体でいえば、エックス線が透過した部分は黒く、透過しない部分は白く映ります。骨折の疑いがあった場合、仮にエックス線がなければ可能性がある部分をすべて切開して整復する必要がありますが、画像診断で正確な場所があらかじめわかっていればピンポイントなアプローチが可能であり、低侵襲な処置で済むのです。 口の中を診断する際もやはりエックス線はとても便利です。歯ぐきに隠れている深い部分に付着した歯石を見つけることができたり、歯と歯の隙間で進行した虫歯の発見などにも役立ちます。特に歯周病の治療には、「口内法撮影」という、小さなプレートを口の中に入れ、治療の経過を定点観察する方法が一般的です。歯科医院での普及率はほぼ100%といわれ、撮影領域も画像のサイズも小さい分、被ばく量が最小で済むという点が最大のメリットですが、口や歯の全体像を把握しようと思うと細切れに複枚数を撮影しなければならない手間がかかります。定期検診などで撮影することが多いのは「パノラマ撮影」という、1回の照射だけで大きな範囲の情報が得られる方法です。