アマゾン物流センター、ユニクロ、トランプ陣営のボランティア…離婚してまで「潜入取材」したジャーナリストが“全手法”を明かした本(レビュー)
特定の企業や組織に潜り込み、一人の労働者などとして働くことを通して、現場の様々な内実をえぐり出す潜入取材――。〈私が企業に潜入してみてきたものは、失われた三〇年と言われる日本経済の衰退の現場だった〉と書く著者は、これまでこの手法によって、いくつもの作品を世に問うてきたジャーナリストだ。 例えば、謎に包まれていたアマゾンの物流センターに潜入し、課せられるノルマや徹底した業務管理の現場をルポした『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』。離婚して姓を変えてまでユニクロの店舗に潜入し、内側から現場の実態を描いた『ユニクロ潜入一年』……。他にも『「トランプ信者」潜入一年』では、トランプ陣営のボランティアとして活動しながら、当時の“トランプ現象”をつぶさに観察してアメリカの「いま」を浮かび上がらせた。 本書で著者はそうした数々の潜入取材で培ったノウハウを、取材術、文章術、情報整理術といった様々な視点から解説。潜入の下準備、メガネ型のカメラや録音機といったガジェット、訴訟対策など潜入取材の要素は多岐にわたり、どれも興味深いものばかりだ。 そんななか、潜入ルポを書く上で大切な本質は二つ、と著者は言う。いわく、〈一つは、書くことが目的であっても働くことに手を抜かないこと〉、そして、〈もう一つ大事にしていることは、ウソをつかないこと〉。 この言葉通り、物流倉庫や宅配の現場で働く著者の姿勢は真剣そのもの。そうだからこそ見えてきた「まだ誰も書いていない実態」や「組織の不都合な事実」を細心の注意を払ってつかみ取り、地べたから見た風景を社会に伝えていくプロセスに引き込まれる。 自著の背景を丁寧に解説しながら、潜入取材の意義を体験的に描いた本書は、一人の気骨あるジャーナリストの歩みを記録した自伝的な一冊としても読めるはずだ。 [レビュアー]稲泉連(ノンフィクションライター) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
新潮社