【密着】青森県弘前市 古来の技法にこだわり奮闘する染織家の息子に届ける母の想い
今回の配達先は、青森県弘前市。ここで染織家として奮闘する佐々木亮輔さん(44)へ、神奈川県で暮らす母・裕美さん(69)が届けたおもいとは―。
自ら栽培した津軽に芽吹く植物で布や糸を染める
リンゴの名産地として知られる弘前市。亮輔さんはその市街地から少し離れた狼森(おいのもり)地区で染織工房を営んでいる。 草木染に使うのは、藍をはじめ、リンゴ、桜、紅花など津軽に芽吹く植物たち。しかもそのほとんどが自家栽培したものだ。 染め物の受注は、主にインスタグラムを通じて。個人や企業からの様々な依頼にこたえている。また作品作りに欠かせない存在なのが、妻でアクセサリー作家の由貴さん(41)。亮輔さんが染めた優しい色あいの糸や生地から独創的なアクセサリーを織り上げている。
亮輔さんが染め物をするのは、家族が寝静まった夜。ある日は、50代の女性から依頼されたストールの藍染に取り組んでいた。オーダーは「薄くて淡い色」。亮輔さんは液体が入ったかめの中に白いストールを沈めると、ゆっくりと手を動かす。現在の藍染は化学薬品を使うのが一般的だが、亮輔さんが行っているのは「地獄建て」と呼ばれる、灰汁(あく)などを使って微生物の力だけで染めるという技法。古来の技法だからこそ生まれる理想の藍色を目指しているという。そしてひたすらかめの中でストールをもみ続けると、次は藍を青く発色させるために重要な「洗い」の工程へ。ここからさらに天日干しと染めを3回繰り返すことで、ストールは透き通るような淡いブルーに染め上がった。「外に干したときにいちいち感動する。きれいだと思う」と亮輔さん。 一方、由貴さんも週末に出店するクラフトイベントに向けて、亮輔さんが草木染で染めた様々な色の糸でアクセサリーを制作する。由貴さんは、「私はこの色を出せないし、逆に旦那さんはこういう作品を作れない。だから2人一緒というのは強みだと思います」と語る。
波照間島で魅了された花の色をきっかけに染織家の道へ
大学卒業後、沖縄県の波照間島に移住し、民宿で働いていた亮輔さん。青い空、真っ赤な花など、波照間島の美しく鮮烈な色に魅了され、写真を撮りポストカードにして販売していた。その頃、ふと「この花の赤い色はうつしとれるのか?」と思った亮輔さんは、鍋に花と水と糸を入れて染めてみることに。すると淡いムラサキピンクのような色の糸が仕上がったという。 そんな興味本位の実験がきっかけで、民宿で出会い交際していた由貴さんとともに、世界的に有名な染織家・石垣昭子さんのもとで修業。そして波照間島で染織工房を開き、10年前に由貴さんの出身地・弘前に移住して夫婦でブランド「Snow hand made」を立ち上げたのだった。 できるだけ手に取ってほしいとの思いから、染めの料金はかなり抑えめで、手間や制作時間のコストは度外視している。そのためSNSの効果で人気は出てきたものの、商売としてはギリギリ。リンゴの収穫期には農園でアルバイトもしている。しかし、ブランドを立ち上げて約10年。子どもも小学生になり、「やっぱりものすごく不安定なので、もう少しやり方を変えていかなければいけないんだろうな…」と本音も。今後は常時販売ができる店舗なども探していきたいという。 亮輔さんと家族を常に気に掛け、ずっと応援しているのが母・裕美さん。新作が出れば購入し、自ら広告塔にもなってくれている。亮輔さんは母の支えがあるおかげで、「しっかり気持ちよく今の仕事ができる」と感謝する。今回、そんな職人としての息子の姿を見た裕美さんは、「離れているといつまでも子どもだという気持ちがありますが、大きくなったなと思います。彼は高校のときからやりたいことを決めていた。それに迷うことなく進んでくれてよかったなあって思います」と喜ぶ。
夫婦で唯一無二の作品を生み出す息子へ、母からの届け物は―
日本最南端の島で色彩に魅了され、辿り着いた染織の道。夫婦で唯一無二の作品を生み出す息子へ、母からの届け物は手作りのお雑煮。実家を離れて以来、25年ぶりとなる正月のお袋の味だ。久々に母の手料理を口にした亮輔さんは、「懐かしいですね」とその味わいを思い出す。そして母へ、「困ったときには助けてもらってるので、すごく感謝しています。なので、安心してもらえるようにいろいろ新しいことにチャレンジしていきたいなと思います」と今後の決意を伝えるのだった。 (読売テレビ「グッと!地球便」2025年1月5日放送)
読売テレビ「グッと!地球便」