「本物のライブをやって撮影する」…『トラップ』製作秘話についてM.ナイト・シャマランが語る
『シックス・センス』(99)、『オールド』(21)をはじめ、そのオリジナリティ溢れる設定と衝撃のストーリーテリングで約20年にわたり世界中の観客を魅了してきたM.ナイト・シャマランの最新作『トラップ』(10月25日公開)。ゴージャスなアリーナライブの会場を舞台に新たな映像体験へと導く本作より、シャマランが物語の着想やキャスティング、リアリティへの挑戦などについて語るインタビューが到着した。 【写真を見る】家族思いの父であり、サイコな“切り裂き魔”という主人公を熱演したジョシュ・ハートネットをシャマランが絶賛 溺愛する娘と世界的アーティストのアリーナライブを楽しむ家族思いの父親のもう一つの顔──それは、指名手配中のサイコな切り裂き魔。そして、この巨大ライブこそが彼を捕まえるため仕組まれた前代未聞の”罠(トラップ)”だった。 シャマランにとって集大成的作品となる『トラップ』。「私は映画の作り方を、自分自身の再発見、トーンの再発見、ジャンルの再発見だと考えている。それが私をワクワクさせる。そのために、私は常に何かしら違ったやり方を模索している」と語り始めると、本作の着想についてが「音楽を題材にしたスリラー映画はできないだろうか」と考えたことであったと説明する。「父と娘がコンサートに行き、コンサートと、そこで起こる恐ろしい事件とを組み合わせたストーリーを作った。こうして『トラップ』は生まれた」と振り返った。 良き父とサイコな切り裂き魔。2つの顔を持つ複雑なキャラクターを演じられる俳優として、ジョシュ・ハートネットを選んだ理由についても言及。「私は、人生において、ちょうどいい位置にいて、本当のリスクを取ることを厭わない人物を探した。挑戦的な映画なら、観客は、珍しくて、凄いものを観ることができるし、それは映画を観に行く新しい理由になる」と主演俳優に求めたポイントを解説する。 「ジョシュ・ハートネットはまさに、この表現にぴったり当てはまる人物だった。彼は非常に思慮深く、哲学的な男だ。彼に会った時、彼は私の目を見つめた。彼は何でもする準備ができていると思った。彼はエネルギーに満ちていて、電撃を感じさせた。クーパーのような特別な役を演じるには、すべてを受け入れ、リスクを取って全力で勝負する準備ができている俳優が必要だった」。 ハートネットは、家族思いの父であり、サイコな“切り裂き魔”という2つの顔を持つ複雑なキャラクターを見事に体現した。その熱演に対してシャマランは、「観客にとって、この映画を観る大きな理由の1つは、ジョシュの素晴らしい演技を観ることなんだ」と絶賛。ハートネットはまさにパーフェクトで、素晴らしい演技を披露してくれたと語っている。 「誰しも、複雑でダークなキャラクターに魅了される。私たちの中にはダークな人物が住んでいる。それは現実だ」と指摘するシャマランは、観客の深層心理に訴える重要なテーマを以下のように説明する。 「現実に存在する怪物は現代にもいる。ダークなキャラクターを描いたり、ダークなキャラクターを演じたりするのは魅力的だ。それは現実の経験とつながっているからなんだ。私にとって重要なのは、極端に恐ろしいことをするキャラクターの中に、ほんの少しでも人間らしさを見出すこと。それは挑戦的でおもしろいことであり、その人間性を見つけることが観客の心に響くんだ。なぜその人物は恐ろしいことをするのか、その人間的な理由を見つけることで、私たちはお互いに共感し合えるようになる。お互いをもう1人の自分として見ることができれば、その認識はとても感動的なものだからだ」。 誰もが持つもう1人の自分、人間の二面性に対する認識があるからこそ共感が生まれ、未知の感動が得られるということだろう。 シャマラン映画のもう1つの秘密は、デジタル撮影が当たり前の時代にフィルム撮影にこだわっていること。「フィルムは化学薬品を使うから、実際に有機的な反応が起こる。ある意味、生きている。フィルムは、デジタルにはできない方法で人生や経験を捉えることができる。フィルムは人生を表現しているように感じる。フィルムは、その限界の中で、観客との関係を築き、それが生きている表現を生み出す。フィルム撮影という、制限がある中で仕事をすることが、最高の作品を生み出す方法だ」とその理由を明らかにしてくれた。 主人公の心理ドラマとアリーナライブを同時進行させるリアリティへの挑戦でもあった本作。「私はCGIを使うタイプではないので、ライブをやると決めた時、みんなに『本物のライブをやって撮影するんだ。ごまかさない』と言い続けた。というのは、私は監督として視点を重視したいからだ」という言葉からも、巨大アリーナでのオンタイム進行するライブ撮影に徹底的にこだわったことが伺える。 「クーパーと娘のライリーが話している瞬間にスクリーンに映っているステージは、その瞬間に実際に起きていることなんだ。本物だからリアルな映像になる。CGIではなく、後から考えて加工したものでもない。テイクごとにスクリーンに映っているライブを自分で演出することになった。スリラー映画を撮影している最中に本物のコンサートを開き、それをやり遂げるのは至難の業だ。信じられないほど挑戦的だったけれど、とてもやりがいがあった」。 シャマランが明らかにしたこれらの言葉からも、本作が常に観客を未体験領域へと導く、映画館でこそ観るべき作品だということがわかってもらえるはず。最後に『トラップ』を映画館で体感してほしいと願う監督からのメッセージを紹介したい。「『トラップ』はまさに、映画館で体験してもらいたくて作った映画だ。その映画体験の中で私の役割は、観客を刺激し、これまでに観たことがないようなオリジナリティがある作品を提供することだ。私の映画は、刺激的だったり、笑えたり、衝撃的だったりする映画を映画館で体験してもらうためのものだ。あるいは、少し居心地が悪くなるような感じや、考えさせられるような感覚も体験してほしい。登場人物の意外な行動に驚いたりね。『彼がそんなことを!?まさか!?そうなる!?』。そんなふうにみんながいっせいに息をのむような瞬間が、映画館で映画を観ることの最高の魅力だ。だから『トラップ』は、みんなに映画館で観てほしい。きっと素晴らしい映画体験になるはずだ」。 騙すか騙されるか、あなたはトラップに隠された衝撃の真実を見破れるか?映画館の客席が明るくなる瞬間まで、容赦なくどんでん返しを繰り出すシャマランに騙され続け、興奮と緊張が爆発する絶対予測不能サスペンスが誕生した。 文/平尾嘉浩