周冠宇に救われたサインツJr. ……スタート直後にパンクし、大きくポジションを落とした彼が3番手に復帰できた理由
先日モンテカルロ市街地コースを舞台に開催されたF1モナコGPでは、1周目の大クラッシュで赤旗中断となった後、フェラーリのカルロス・サインツJr.がポジションを回復できたことに、大きな疑問符がつけられていた。実際、ライバルチームのドライバーらからも、不満を訴える声が上がった。 【動画】オープニングラップに衝撃の大クラッシュ発生! ペレスのマシンは見るも無惨な姿に|F1モナコGP しかしこの手順は、レギュレーションに基づいた裁定であり、実際にはキック・ザウバーの周冠宇の位置が大きく関係していた。 F1モナコGPの決勝レースを3番グリッドからスタートしたサインツJr.は、1コーナー”サンテ・デボーテ”でマクラーレンのオスカー・ピアストリと接触。この時左フロントタイヤをパンクさせてしまいカジノコーナーを曲がりきれず、退避エリアに直進してしまった。サインツJr.はなんとかコースに復帰できたものの、これで大きくポジションを落とすことになった。抜きにくいモナコでこの後退は、上位入賞に向けては致命的だと思われた。 ただ後方では、レッドブルのセルジオ・ペレスとハース2台による大クラッシュが発生。レースは即座に赤旗中断となった。 そして赤旗中断からのレース再開時、サインツJr.は3番手に戻されていた。これには不満の声も上がったが、実際にはF1のスポーティング・レギュレーションに準拠した処理がなされていた。 赤旗中断からの再スタート時の順序は、「いかなる場合にも、すべての車両の位置を決定することが可能な最終時点のものを採用する」と規定されている。 赤旗が掲出された時、先頭車両は既にシケインを通過しているところだった。この時の順序をテレビ映像で見ただけでは、レース再開時の順序を決めるには十分ではない。最近のF1では、かなり正確なGPSデータが使われている。それを基に各車の相対的な位置を把握することはできるものの、それもまた100%完全だとは言い難い。 そうなれば「車両の位置を決定することが可能な最終時点」は、タイミングデータを取得することができた位置とする必要がある。 レースコントロールは当初、ミラボーの手前に設定されている、第1セクターのタイミングラインをこの順序決定のための基準としようとしていたようだ。しかし赤旗が掲出された時点で、この第1セクターを全車が通過していたわけではなかった。キック・ザウバーの周だけは、まだその手前にいたのだ。 周はスタートで出遅れ、隊列の最後尾に落ちてしまっていた。そのため、ペレスとハースのクラッシュを、目の前で目撃することになった。周はこの事故を受けて急減速。メディカルカーに進路を譲り、コース上に散らばった破片や大破した3台の車両を避けて事故現場を通過した。そして赤旗掲出。その時の周は、まだカジノの手前、マセネーの立ち上がり付近にいた。 そのためレースコントロールは、セクター1を赤旗中断からの再スタート順を決める基準に使えなかった。そのため、セクター1の計測地点の手前にある、最も信頼できる基準点の通過順で、順序を決めることになった。それがピットレーン出口の先に引かれた第2セーフティカーラインだ。モナコでは、これがサンテ・デボーテの出口に設けられている。 この第2セーフティカーライン通過時には、サインツJr.はまだ3番手をキープしていた。そのため、赤旗からのリスタート時に3番手に戻ることができたわけだ。 一方で、この時点までに前を行くマシンを抜くことができ、その上げたポジションをリスタート時にもキープできたマシンもいた。アストンマーティンのランス・ストロールは、この第2セーフティカーラインまでにRBのダニエル・リカルドをオーバーテイク。リスタート時にもこの12番手のポジションを維持した。 マクラーレンのランド・ノリスは、サインツJr.が脱落したことで3番手に上がったと信じていた。しかしリスタート時にはサインツJr.が前に戻り、しかもレース中に攻略できず、結局4位でフィニッシュすることとなった。ノリスはこのサインツJr.が3番手を取り戻したことは「不公平だ」と不満を漏らしていた。しかしマクラーレンのチーム代表であるアンドレア・ステラは、レースコントロールが再スタート時の順序を決めた方法は正しかったと認めた。 「FIAがやったのは、最善の行動だったと思う」 そうステラ代表は語った。 「セクタータイムが利用できないという場合には、第2セーフティカーラインを使うというのは、前例とも一致している」 「ミニセクターを使うのが良い方法だとは思わない。そしてカルロスを救った最大のポイントは、レースが中断された時点で、周がセクター1を超えていなかったということだ。カルロスはラッキーだったな……」
Jonathan Noble