【浦和】流れるような左の変化に注目。中島翔哉の自由、安居海渡のバランス、渡邊凌磨のサポートがヘグモ流を進化させる
攻撃サッカーを標榜する浦和レッズが、10試合を終えて歯車を一つ前に進めた。名古屋グランパスを迎えた4月28日の明治安田J1リーグ第10節で、左サイドの変化がその一つのきっかけになった。ウイングの中島翔哉、インサイドハーフの安居海渡、サイドバックの渡邊凌磨がそれぞれの視点から見た90分とは? 【動画】安居海渡が今季初ゴール! 冷静にゴール左に流し込んだ ■2024年4月28日 J1リーグ第10節(@埼玉/観衆42,265人) 浦和 2-1 名古屋 得点:(浦)安居海渡、チアゴ・サンタナ (名)和泉竜司
ヘグモ監督が明かすメカニズム
浦和レッズが名古屋グランパスを2-1で下した90分は、スコア以上に浦和の安定ぶりが目についた。一つ、歯車がカチッと動いたのではないだろうか。 ペア・マティアス・ヘグモ監督が就任し、新しい4-3-3システムで攻撃的なスタイルに大きな期待が集まったが、すぐにうまく回っていくほど甘くはない。9試合で3勝2分け4敗で、連敗中。ここで立ちはだかるのが、6試合負けなしの名古屋グランパスである。難しい試合になることが予想された。 ただ、フタを開ければ浦和が落ち着き払って試合をコントロールした。ヘグモ監督が「シーズンの立ち上げのところでは選手たちをより固定して使っていました」と話したように、新しいシステムを植え付けるために選手それぞれが与えられたポジションから逸脱しないようなプレーが目立った。ある意味で、硬直化したサッカーだった。 それがこの日は、流動性を手にしてプレーした。ヘグモ監督が試合後、その秘密を流麗に解説している。 「時間の経過とともに、練習してきた形、例えば(中島)翔哉がトリガーとなって、チアゴ(サンタナ)がそれに合わせてプレスをかけるとか、(伊藤)敦樹が出ていくというプレーも出てくるようになりました」 守備で相手を凌駕していくきっかけに、中島の名前を挙げた。その中島は守備の秘密を「あんまり言わない方がいいんじゃないですか」と笑わせて詳らかにすることを避けたが、「守備と攻撃はあまり分けていなくて、ボールを取れば攻撃になる」と、トリガーになったのは守備のためだけではない、という意識を口にしている。 その攻撃のメカニズムについて、ヘグモ監督はこう表現する。 「翔哉はテクニックを使って相手のバランスを崩すことができるタイプです。翔哉がいると、例えば翔哉が内側に入って、サミュエル(グスタフソン)がディフェンスラインに下りて、(渡邊)凌磨が 上がっていくという変化をつけることができます」 これまでのポジション固定の戦いから自由度を高めて、いわば自分たちで枠組みを「壊して」いくことを怖がらなくなった。 「さらに発展させていって、例えばサイドバックがより内側にいるとか外側にいるというような変化をつけてますし、翔哉には内側に入っていく自由を与えています。彼はトップ下のようなポジションに入ってプレーしますけれど、すべては選手の特徴や周りとの関係性にもよるものです。翔哉が中に入ったら凌磨が上がっていくというようなことができます」 中島の自由が周囲を触発し、流動性を生んでいく。アンカーのグスタフソンがFWを追い越してポケットを取るシーンも増えてきて、前後のローテーションもスムーズになってきた。 そこで注目されるのが、今季初先発となった安居海渡である。 ■「バランスを見るようにと」 「そのような動きがありますので、左インサイドハーフの海渡はよりバランスを取ることをしなければなりません。ただ、もちろん後ろに残るだけではなくて、本日の試合でも見られましたが、裏に抜ける動きもしています」 ヘグモ監督にとって安居の存在は頼もしく映ったようだ。自由とのトレードオフでバランスを取る選手はどうしても必要で、守備でも攻撃でも快活なオールラウンダーの特徴がそこに面白いようにはまった。グスタフソンが思い切り前に出ていけたのも、代わりに中盤のスペースを埋めるこの男がいたからこそだ。 安居もそこは強く意識してピッチに入ったという。 「相手がマンツーマンのチームだと分かっていたので、自分たちが動いてもらうことは試合に入る前から意識したところ。背後へのランニングももっとやっていかなければいけなかったけど」 名古屋のようなスタイルのチームを相手には、こちらからポジションをずらしていけば混乱させることができるという確信があった。 「翔哉くんはウイングはウイングなんですけど、結構自由にいけるタイプで、そこはバランスを見るように試合前にも言われました。自分がもう少し前で絡んでいければとも思いましたけど、バランスというのがちょっと頭に残ってて、ちょっと後ろ気味でもらうことも多かったのかな」 今季初先発だから、中島との関係性や距離感を探りながらのプレーにはなったが、中島の大胆さと安居の慎重さがお互いを刺激し合ったのだろう。安居は24分にはゴール前に潜り込んで、左足で落ち着いて先制ゴールを流し込んでいる。 ■「考えすぎてはいない」が意味すること そんな組み合わせを、後ろからの視点で振り返ってみる。左サイドバックの渡邊凌磨である。中島との関係についてはこんなふうに話している。 「もうちょっとスペースを使えたかな、というのもありますけど、相手も5バックでなかなか数的優位は作れない状況でもあったので、なるべく後ろからサポートしながら、前の人たちが攻撃しやすいように、と考えました」 ここでも、中島をできるだけ前に押し出すことを重要視している。安居についても同様だ。 「守備範囲が広い選手だし、走れるし、僕もすごく助かりました。だからもっと、攻撃で僕から海渡に当てるシーンが増えればよかったな。相手はマンツーマンで来る中で、なかなか真ん中にボールを入れるのが危険だったから、この試合では仕方なかったけれど」 渡邊自身が攻撃のビッグチャンスに絡むシーンは多くはなかったものの、サポート役に回って彼らを押し出すことで支え続けた。 チーム作りとは繊細なもので、選手の組み合わせやコンディション、対戦相手の戦い方や時間帯によって、不思議なほどに乱高下する。ただ、どのチームも10試合を終えて徐々に安定してくる時期でもある。浦和もそう。 「みんなの良さをある程度分かってきて、それぞれのやりたいこととか、チームとしてやりたいことを踏まえてプレーできています。そこはそんなに考えすぎてはいないかな」 新しいスタイルを取り入れたことで意識を強く置きすぎるポイントがたくさんあるシーズンのスタートだったが、それが徐々にこなれてきた。渡邊の「考えすぎてはいない」という言葉は自然体を意味しているから、チームがうまく回転し始めたことを示しているのかもしれない。
サッカーマガジンWeb編集部