社説:海自と防衛産業 国民裏切る癒着の構造
防衛産業との根深い癒着の実態に、政府が急拡大させる防衛費の内実を疑わざるを得ない。 海上自衛隊の潜水艦修理契約に絡む川崎重工業の物品提供問題を巡り、防衛省の特別防衛監察で川重が少なくとも約40年前から架空取引で裏金を捻出し、不正に充てていたことが明らかになった。 乗員側から家電製品などを要望する「おねだり」も常態化していた。その原資は契約金額を膨らませた防衛費であり、許し難い。 「防衛力増強」に巣くう産業との癒着や、腐敗の構造に徹底したメスを入れなければ、防衛のための増税など国民に理解されまい。 中間報告によると、川重は取引先企業と結託して養生材などの大量発注を装い、2023年度までの6年間だけで計17億円を捻出。うち約6億円を裏金とし、乗員向けの携帯用ゲーム機や服飾の購入、飲食接待に充てていた。乗員側は靴サイズまでリスト化して要望しており、あぜんとする。 川重側には現場の関係構築に加え、利益が目立って契約金額が下がらないよう、積算額をかさ増しする目的があったという。 国内で潜水艦建造・修理は川重と三菱重工業だけに限られる。防衛関連は市場競争が働かず、相次いだ過剰請求や汚職、談合への対策として15年発足の防衛装備庁に調達を一本化したが、架空取引を上乗せした契約が見逃されてきた。なれ合いは現場レベルにとどまるだろうか。三菱重工とも問題契約が見つかった。 政府は、5年間に総額約43兆円を投じる「防衛力の抜本的強化」を進め、25年度予算案で防衛費は過去最大の8・7兆円と突出した伸びだ。ただ、財源に見込む所得税増税は先送りが続く。 川重や三菱重工の防衛関連の受注額は23年度に2倍超に増えて急拡大している。 防衛省は川重を厳重注意し、過剰分の返納を求めるが、それで済む話ではない。膨らむ支出内容の厳正な精査と関係者の処分、実効性ある再発防止策が欠かせない。 近年の防衛力強化では、高額な戦闘機やミサイルを「爆買い」する一方、約2万人の隊員定員割れを踏まえ、給与引き上げなど処遇改善方針を掲げた。 だが、事務次官や海自トップの引責辞任を含め大量の処分者を出した特定秘密のずさんな取り扱い、手当の不正受給、パワハラなど不祥事が絶えない。 国防の足元を見つめ直さねばならない。