『破墓/パミョ』でカリスマシャーマンに!初来日を果たした最旬女優キム・ゴウンのキャリアを振り返る
第74回ベルリン国際映画祭でワールドプレミアとして上映され、本国で約1,200万人の観客動員を記録した2024年韓国No.1ヒット作『破墓/パミョ』が、10月18日(金)に日本上陸。 【写真を見る】『破墓/パミョ』では初来日し、ジャパンプレミアに登壇したキム・ゴウン 本作には『オールド・ボーイ』(03)で知られるベテラン俳優チェ・ミンシクをはじめ、「コンフィデンシャル」シリーズ(17、22)で味のある演技を見せた個性派俳優ユ・ヘジン、「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」(22-23)で大ブレイクした若手俳優イ・ドヒョンなど、豪華な顔ぶれが集結しているが、その中でも特に話題となっているのがシャーマンである巫堂(ムーダン)のファリムを演じたキム・ゴウンだ。 彼女といえば、「トッケビ ~君がくれた愛しい日々~」(16-17)をはじめ、「ユミの細胞たち」(21-22)、「シスターズ」(22)など数々のドラマが韓国のみならずアジア全土でヒット。その自然体かつ繊細な感情表現の演技力で愛されてきた印象だが、『破墓/パミョ』ではこれまでのイメージを覆す迫真かつ成熟した演技を見せている。今回は、そんないまもっとも注目すべき韓国俳優の一人であり、先日来日したことでも話題になったキム・ゴウンの演技遍歴を振り返ってみよう。 ■『ウンギョ 青い蜜』で鮮烈な女優デビュー!ヌードにアクション、新人らしかぬ大胆な演技が話題に キム・ゴウンが役者デビューをしたのは、2012年に韓国で公開された『ウンギョ 青い蜜』。本作は、70歳の老詩人とその才能に嫉妬する弟子、そして彼らのもとに家事手伝いのアルバイトとしてやって来た女子高生の愛と嫉妬と欲望が渦巻くストーリーとなってる。キム・ゴウンは、初々しい若さと不思議な色気を持つ女子高生ウンギョを演じ、新人かつ当時21歳という若さにもかかわらず、劇中では一糸まといわぬ姿を披露し、その大胆な演技が賞賛された。映画の内容は賛否両論だったが、彼女は本作が公開された年の「青龍映画賞」や「釜日映画賞」、「ニューヨーク・アジア映画賞」などをはじめとする国内外のありとあらゆる新人賞を総なめにした。 2014年の『その怪物』では、イ・ミンギ演じる殺人魔と対決する勇敢な少女ポクスン役で、狂気を感じさせる演技でインパクトを残した。2015年には『コインロッカーの女』で、生後間も無くコインロッカーに捨てられ裏社会で生きる少女イリョンという複雑な役柄に挑戦し、「富川国際ファンタスティック映画祭」や「韓国映画を輝かせたスター賞」などで賞を獲得。また、同年公開された時代劇『メモリーズ 追憶の剣』では、スタントなしのアクションに苦戦しながらも復讐に燃える剣士ホンイを熱演するなど、デビュー当時から数々の作品において過激で難易度が高いシーンに挑んでいた。今やその確かな演技力で実力派女優として名を馳せている彼女だが、実はデビュー間もない頃から着実に頭角を表していたのだ。 ■主演ドラマが社会現象級の大ヒット!人気スターの仲間入りを果たす そんなキム・ゴウンを一躍人気女優に押し上げたのがドラマの存在。彼女は、2016年に「恋はチーズ・イン・ザ・トラップ」でドラマデビューを果たした。本作は、韓国の大人気ウェブ漫画が原作となっていることもあり、実写化するにあたってどのような俳優がキャスティングされるか当時大きな注目が集まっていたようだ。そんななかで、主人公に抜擢されたのがキム・ゴウンだ。 本作は、真面目で平凡な女子大生ソルが、ある日、皆に慕われる完璧な先輩ユ・ジョン(ハン・ヘジン)の冷徹な本性を知ってしまったことから展開されていくストーリー。ドラマが放送される前、原作ファンの期待や予想と異なる人選であるが故にネガティブな反応も合ったそうだが、彼女はソルが初めユ・ジョンに対して持っていた警戒心からから恋心に変わっていくまでの繊細な感情の変化を自然体な演技で表現し、見事に形勢逆転。「第52回 百想芸術大賞」のTV部門女性新人演技賞を受賞し、一気に知名度を高めた。日本でも恐らく、本作を機に彼女の名を知った人が多いだろう。 そして2016年には、全世界の韓ドラファンを感動の渦に巻き込んだ「トッケビ ~君がくれた愛しい日々~」で大ブレイク。コン・ユ扮するトッケビの花嫁チ・ウンタク役を務め、ウンタクの少女から大人の女性になるまでを見事演じ分けた。劇中で見せたチャーミングで可愛らしいなかにも複雑な内面性を感じられる演技が大衆の心をわし掴みにした。 ■ロマンスからミステリーまで!作品や役のジャンル問わず光る演技力 「トッケビ」の大ヒット後、名実ともに人気俳優の仲間入りを果たした彼女は、「ユミの細胞たち」での“生活密着型演技”とも呼ばれるリアルな演技で、再びその実力を証明。彼女が演じた失恋によって恋愛から遠ざかってしまった平凡な会社員ユミが、再び恋することで泣いたり笑ったりと感情を取り戻していく様子が多くの視聴者の共感を誘った。 また、「シスターズ」では権力者たちの巨大な陰謀に立ち向かう貧困三姉妹の長女を演じ、弱き立場にある者の中に秘められた強さを感じる迫真の演技で話題に。 一般的に、ドラマや映画のキャスティングするうえで、登場人物の外見の雰囲気やイメージに合った役者を起用するケースが多いことから、似たような役を演じ続ける役者も少なくない印象だ。しかし、彼女はこれまで出演してきた数々の作品からもわかるように、特定の役に縛られることなく、様々なキャラクターをその高い演技力で魅力的に表現している。筆者は、彼女のこういったどんな色にも染まる変幻自在の演技は、デビュー当時からあらゆる難しい役に挑戦して磨かれてきたものだと感じている。 ■『破墓/パミョ』では悪霊を鎮めるお祓いをする巫堂に変身 今ではすっかり演技派として人気を博すキム・ゴウンが出演する『破墓/パミョ』の物語は、2人の巫堂が代々謎の病気に悩まされている家族から大金と引き換えに先祖の墓の改葬を依頼されることから始まる。そこに、巨額の報酬の匂いを嗅ぎつけて来た風水師と葬儀師が合流し、彼ら4人が先祖の墓を掘り起こしたことによって恐ろしい秘密が明かされていくというストーリーだ。 キム・ゴウンは、本作で若いながらも有能な巫堂ファリムを演じ、「第60回百想芸術大賞」映画部門女性最優秀演技賞に見事輝いた。全体的に不穏な空気感が漂う映画の中で、彼女の凛とした佇まいと覇気のある演技は実に印象的だった。特に、韓国の伝統的な儀式「대살굿(テサルお祓い)」のシーンで見せた圧巻の演技は、韓国で「まるで本物の巫堂のようだ!」と絶賛されているほどの大迫力で忘れがたい。 この役柄を演じるうえで、彼女は本物の巫堂を訪ねて役作りに挑んだそうで、「所作を学んだり、ジンという楽器の演奏のレクチャーを受けたりと、巫堂の先生と多くの時間を過ごしました」とインタビューで語っている。また、「テサルお祓い」のシーンについては、「実際見ることはなかなか難しくて、どのような動きで執り行うのか、どんな理由でやるのかなど資料映像を探してたくさん見て参考にしました」とも話していて、撮影の前日には1日をかけてリハーサルも行ったのだそう。 そして、すごいのは巫堂の演技だけではない。依頼を受けた際に問題の原因をいちはやく見抜く鋭さやイ・ドヒョン演じる弟子のボンギルとの信頼関係、風水師サンドク(チェ・ミンシク)や葬儀師ヨングン(ユ・ヘジン)といった年上の大人たちにも臆することのない強い性格など、ファリムというキャラクターの人間性を細かい表情の動きや台詞の語気などで上手く表現しているのも見どころだ。 素朴で愛らしい役から宿命を背負った複雑な役まで、ありとあらゆるキャラクターに命を吹き込み、ドラマや映画の中で唯一無二の存在感を放ってきたキム・ゴウン。今回の『破墓/パミョ』では、巫堂という今まで演じてきた人物とは異なる専門的で奥妙な役に挑戦し、その表現の幅は止まることを知らず、年々広がっているように思える。彼女のよりブラッシュアップされた圧巻の演技に是非とも注目していただきたい。 文/AMO