アメリカ、スーダン準軍事組織による「ジェノサイド」認定 指導者に制裁も
ブシリオー・ルカンガ、モハナド・ハシム(BBCニュース) アメリカは8日、内戦が続くスーダンの準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」がジェノサイド(集団虐殺)を行ったと非難し、指導者に制裁を科すと発表した。 アントニー・ブリンケン米国務長官は7日、RSFを主導するモハメド・ハムダン・ダガロ司令官(通称ヘヘメティ氏)が、20カ月にわたる内戦中、国民に対する「組織的な」残虐行為に関与したとし、制裁の対象にすると述べた。 ブリンケン氏は、RSFと民兵らが「男性や少年、さらには乳児まで」殺害したほか、民族を理由に、女性に対して残虐な性的暴行を行ったと述べた。 また、民兵は逃げる市民を標的にし、紛争から逃れる無実の人々を殺害したと説明。 「この情報に基づき、RSFおよび同盟する民兵がスーダンでジェノサイドを行ったと結論付けた」と、ブリンケン氏は説明した。 ■金取引を標的とした制裁 併せて発表された制裁では、ヘメティ氏とその直系家族に対し、アメリカ入国を禁止し、アメリカに保有する個人資産を凍結する。 また、アラブ首長国連邦(UAE)に拠点を置くRSF所有の企業7社と、RSFの武器調達を支援した個人1人も制裁対象となっている。 UAEは、RSFに資金や武器を提供しているとする数々の非難を否定している。UAEは声明で、「国際金融システムの健全性を保護する役割を非常に真剣に受け止めている。世界的な金融犯罪との闘いにコミットしている」と述べた。 制裁対象となった企業のほとんどは金取引に関連している。そのうちの一つであるAZゴールドは、スーダンから金を輸入し、それを販売している。 米財務省は声明で、ヘメティ氏の兄弟の一人であるアルゴニー氏が、UAEにあるAZゴールドの銀行口座へのアクセスを維持しており、数百万ドルが保管されていると述べた。 ヘメティ氏とRSFは、北ダルフールのジェベル・アメルにある、スーダンで最も収益性の高い金鉱を複数支配している。現在では中央アフリカ共和国との国境近くのソンゴや、国境を越えた地域でも、金鉱を掌握していると言われている。 ヘメティ氏に対する制裁により、副官のアブデル・ラヒム氏と、調達責任者であるアルゴニー氏を含む、ダガロ3兄弟全員がアメリカの制裁対象となった。 ■RSFはアメリカの「二重基準」を批判 RSFはこれに対し、アメリカが二重基準を適用し、現在進行中の危機に効果的に対処していないと非難した。 ヘメティ氏の顧問を務めるエル・バシャ・トバエク氏はX(旧ツイッター)で、「この決定は(ジョー・)バイデン政権がスーダンの危機に対処できなかったことと、(危機に対して)二重基準を適用したことを示している」と投稿した。 また、アメリカの決定によってスーダンの危機が複雑化し、紛争の根本原因に対処するための交渉が妨げられる可能性があると付け加えた。 スーダンでは昨年4月以来、国軍とRSFによる内戦が続いている。 同国では2021年10月、軍トップのアブドゥル・ファッターハ・ブルハーン将軍がクーデターを起こした。クーデター後に主権評議会(暫定政権)の議長となったブルハーン将軍に従う陸軍部隊と、副議長のモハメド・ハムダン・ダガロ司令官(通称ヘメディティ氏)に従うRSFが対立し、内戦が勃発した。民政移管のプロセスをめぐる協議では、RSFを国軍へ統合する時期について両者が折り合わず、緊張が高まっている。 こうしたなか、両者の残虐行為に対する非難が高まっている。 アメリカは以前、RSFおよび他の民兵が西部ダルフール地域で戦争犯罪、人道に対する罪、民族浄化に関与しているとの判断を示している。RSFらは、この地域で非アラブ人を標的にし殺害していると非難されている。 この紛争は世界最悪の人道危機の一つを引き起こしている。 アメリカのスーダン特使を務めるトム・ペリエロ氏は昨年5月、一部の推定をもとに、この紛争で最大15万人が死亡した可能性があると述べた。 また、食料安全保障の専門家からなる独立委員会は昨年12月、スーダンで飢餓の悪化と急性栄養失調の急増を特徴とする「飢きん危機の拡大」が起きていると警告。人口の約半数にあたる2460万人が緊急に食料援助を必要としているとした。 ブリンケン氏は記者会見で、RSFもスーダン軍も、スーダンを統治する資格がないと主張。 「両陣営はスーダンにおける暴力と苦しみの責任を負っており、将来の平和なスーダンを統治する正当性を欠いている」と述べた。 ■内戦への影響は アメリカはこれまで、2023年のジェッダで行われた和平交渉や、最近の「スーダンにおける命の救済と平和の推進のための連合(ALPS)」グループ会談に関与しているにもかかわらず、スーダン内戦を終わらせるために十分な措置を講じていないと批判されてきた。そのため今回の決定は、バイデン政権にとっては重要な介入とみられている。 RSFへのジェノサイド認定は、米議会で超党派の支持を受ける可能性もある。また、次期ドナルド・トランプ政権に対し、アメリカがRSFをどのように見ているかを示すものでもある。 ヘメティ氏はアメリカに資産を持っているとは知られていないが、ジェノサイド認定は、RSFのすべての事業部門に影響を与えるだろう。 アメリカの動きが、地上での戦闘に即座に影響を与えることはないかもしれないが、地域の支持者に対しては確実に、RSFと距離を置いて取引を慎重にするよう圧力をかけることになる また、RSFが支配する地域で統治機構を立ち上げることが複雑になる可能性がある。 RSFは、ダルフールのほぼ全域と首都ハルツーム、首都南部の地域を含む国土の約50%を支配しており、国軍は東部のポートスーダンに移動せざるを得なくなっている。 アメリカによるジェノサイド認定が、停戦交渉への新たな関心を呼び起こすかどうかは不明だ。スーダン軍は先に、UAEに加えてトルコの仲介を受け入れることを示唆した。 (英語記事 US accuses RSF of Sudan genocide and sanctions its leader)
(c) BBC News