暗いロシアに光投じる「ジョージ・オーウェル図書館」
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【1月28日 AFP】ジョージ・オーウェル(George Orwell)、ウラジーミル・ソローキン(Vladimir Sorokin)、フョードル・ドストエフスキー(Fyodor Dostoevsky)──。司書が、ロシアの暗い時代に光を放つ手助けになると考える作品を棚から数冊選び出した。 ここは、首都モスクワから車で5時間の距離にある工業都市イワノボ(Ivanovo)に昨年オープンした「ジョージ・オーウェル図書館(George Orwell Library)」だ。プロパガンダと検閲の強化に対抗すべく設立された。 老朽化した建物の中にある簡素な図書館には、コンピューター1台と数百冊の本が置かれ、司書のアレクサンドラ・カラショーワ(Alexandra Karaseva)氏の香水の香りが漂っている。 「本は敵の中にでさえ人間的な面を見いだし、非人間的なものを拒絶する上で役に立つ」とカラショーワ氏は言う。 図書館は地元の実業家で、ウクライナ侵攻に抗議していたドミトリー・シリン(Dmitry Silin)氏によって開設された。シリン氏は、率直に意見を示したことを理由に収監されることを恐れ、ロシアから出国した。 カラショーワ氏は、ディストピアや旧ソ連の刑務所制度に関するもの、大統領府(クレムリン、Kremlin)に批判的な現代作家の作品のほか、「読むと気持ちが明るくなる」ような小説も見せてくれた。 「ディストピアについて読めば読むほど、自由になれる。そうした本は、危険なこと、それを回避し、抵抗する方法を教えてくれる」と話す。 こうした本は発禁処分を受けているわけではないため、通常の図書館と同じように貸し出せる。作家が法律で「外国の代理人」に指定されており、書店では表紙を隠して販売されている作品もある。 ■この図書館では「恐怖を忘れられる」 タートルネックを着て、分厚い眼鏡を掛けているカラショーワ氏から、知識が止めどなくあふれ出す。オーウェルの傑作「1984」は、極めて機能的な独裁政権にあらがう不毛な試みを描いている作品だと話した。 話は、ドストエフスキーの「悪霊(Demons)」やソローキン、ハーパー・リー(Harper Lee)、エリッヒ・マリア・レマルク(Erich Maria Remarque)の作品にも及んだ。 カラショーワ氏は退職前は古代ローマの歴史家で、「共和制から独裁制への移行」を専門としていた。 だが、高尚なテーマだけを扱っているわけではない。大ヒット映画『バービー(Barbie)』は「見掛けよりも深い話」だと指摘した。 野党ヤブロコの活動家、ドミトリー・シェストパロフ(Dmitry Shestopalov)さん(18)はこの図書館に足しげく通い、映画を見たり、同年代の若者と会ったりしている。最近、図書館の会議室で行われた『バービー』の上映会にも参加した。 「私たちの国ではいろいろなことが起きているが、ここでは自分を成長させることができる。恐怖を忘れ、自由や安らぎを感じられる。私たちをむしばむ巨大なシステムの中で、自分は独りではないと思える」と語った。 ■「無知は力なり」に衝撃 図書館の共同設立者で弁護士のアナスタシア・ルデンコ(Anastasya Rudenko)氏(41)は、今のロシアには「1984」に描かれている全体主義の「兆候」が見て取れると指摘した。 とりわけ感じるのは「恐怖で身動きが取れなくなる」感覚だという。 さらに、「1984」に登場する「無知は力なり」というスローガンが現代にも通じることにも衝撃を受けたという。 ロシアでは「何が起きているかをきちんと知ろうとしない人は、何の問題もなく生活している」と話す。 ルデンコ氏のきょうだいと夫は軍の将校で、ロシア政府が言うところのウクライナの「特別軍事作戦」に従事している。 この話題について率直に話すことはできないという。少しでもデリケートな発言をすれば、制裁や実刑判決を受けかねない。弁護士という肩書も、夫が将校でも守られない。 ルデンコ氏は昨年6月、ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)氏のドキュメンタリーを見たとテレグラムに投稿したことなどが問題視され、ロシア軍の「信用を傷つけた」として罰金刑を言い渡された。 笑顔で快活に取材に応じていたが、紛争を前に無力でいるのは「耐え難い苦しみ」だと話した時は涙を見せた。 一方で、夫が戦地に行ってからは「間違いなく」夫への愛情は深まっていると話す。 こうした矛盾した気持ちに、離婚はしないのかと尋ねる人もいる。そんな時は「自分ならどうしていた?」と問い掛けるという。 映像は2023年10月撮影。(c)AFPBB News