友好ムードのデモが一転 警官狙撃事件で米国の人種問題はさらに悪化するか
黒人が相次いで警察官に射殺されたことに抗議するデモが行われていた米テキサス州ダラスの繁華街で7日夜、高所から警察官を標的にした狙撃事件が発生。少なくとも11人の警察官と1人の民間人が撃たれ、5人の警察官が死亡した。人種問題が背景にあるとされる警察の不当な暴力に抗議するデモは、警察官が次々に殺害されるという前代未聞の事態を迎えた。ダラスで何があったのか。市民の声を紹介し、現在判明している情報を整理したいと思う。 【写真】米警官による黒人暴行事件 「息ができない」アメリカの人種と犯罪の現在
現場は53年前のケネディ暗殺現場のほど近く
警察が黒人を射殺する事件が後を絶たないアメリカ。5日にはルイジアナ州バトンルージュで37歳の男性が2人の警察官にタックルされ、路上に体を押し付けられたまま胸部を銃で撃たれ死亡した。翌日にはミネソタ州ファルコンハイツで、走行中の自動車のライトが壊れていたことを理由に停車を求められた黒人男性が、免許証を警察官に手渡そうとした際に突如発砲され死亡した。バトンルージュのケースでは、周辺の目撃者や商店主が携帯電話で一部始終を撮影し、それをSNSで公開した。ファルコンハイツのケースでも、同乗していた男性のガールフレンドが、撃たれた男性の様子や警察の対応を携帯電話からライブで動画配信した。これらの映像は瞬く間に多くの人にシェアされ、警察の過剰な暴力の様子があらためて知られることとなった。 ファルコンハイツで免許証を見せようとした学校職員の黒人男性が射殺されたものを含めると、今年の1月から少なくとも116人の黒人が警察官によって殺害されている。「激しく抵抗したため、やむを得ない措置であった」という警察側の弁明は、スマホの普及やSNSの登場によって、昔のように簡単に受け入れられなくなってきた。5日と6日に連続して発生した警察官による過剰な発砲は、アメリカ国内でも大きな衝撃をもって報道され、警察による行き過ぎた力の行使に抗議する集会が7日に全米各地で開かれた。ニューヨークやワシントン、シカゴといった町に加えて、ダラスでも同様の集会が行われ、約800人が町の中心部に集まっていた。 地元メディアの報道では、ダラスの抗議集会には警備目的で約100人の警察官も配置されていたが、集会は穏やかなムードで行われ、警備の警察官と笑いながら写真撮影する参加者の様子もツイッターに投稿されていた。集会が終わる直前、午後9時前に狙撃が始まり、次々と警察官が倒れ、現場は一瞬にしてパニックになったのだという。集会に参加していたクラリサ・パイルスさんが当時の状況を語ってくれた。 「私は8時過ぎから抗議集会に参加していました。しばらく他の参加者と一緒に歩き、(大統領選の)選挙人登録用紙の記入も済ませておきたかったので、9時前に近くのマクドナルドに入りました。間もなく銃声が聞こえ始め、花火だと思って外に出てみると、警察官が通行人に地面に伏せるよう何度も言っていました。その時に初めて銃声だと理解しました。そこから這うようにして移動し、それから周囲の人たちと一緒に全力で走りました。生きた心地はしなかったです」 1963年に当時のジョン・F・ケネディ大統領が狙撃された場所からそれほど離れていない繁華街で突如鳴り始めた銃声。警察官が次々に狙い撃ちされ、デモの参加者はパニックに陥る。応援部隊も現場に到着し、容疑者を拘束するための追跡が始まったが、前例のない事件にダラス市警内部でも混乱が生じていたようだ。 事件発生当初、ダラス市警は集会に参加していた黒人男性を「参考人」として探していると発表し、市民からの情報協力を求めた。この男性はライフルを肩に担いで集会に参加しており(公共の場で銃を持ち歩くことは、テキサス州では違法ではない)、ライフルを担いで歩く男性の写真はメディアも大きく取り上げたが、しばらくして男性が自ら出頭し容疑を晴らしている。この男性は発砲音が聞こえた直後に、近くにいた警察官に自らのライフル銃を預けており、その様子は友人によってビデオ撮影されていた。 発砲音が鳴り響く現場では、狙撃に関与した疑いで3人の男女が拘束された。別の場所では、25歳のマイカ・ジョンソン容疑者が警察と銃撃戦を繰り広げていた。