“逃げ出したいほど苦しい”制作の先にあるもの 佐藤直紀氏が紡ぐ『海に眠るダイヤモンド』の音楽
脚本と監督の言葉から作る作品へのイメージ。自分に疑いをかけながら進める制作過程とは
映画やドラマなどで流れる音楽「劇伴」。物語を繊細に支え、シーンの空気を一層際立たせることで視聴者を深く引き込み、心を揺さぶる大事な役割を担っている。神木隆之介が主演を務める、TBS日曜劇場枠で放送中の『海に眠るダイヤモンド』では、1950年代の端島(長崎県)と現代の東京を舞台に物語が描かれているが、その活気と希望にあふれる舞台も、音楽によって演出されていることにお気づきだろうか。 【写真】二の腕のホクロがポイント? ファンを魅了した斎藤工のイケメン表紙 本作の音楽を担当するのは、近年の話題作『ブルーモーメント』、『風間公親-教場0-』、映画「ゴジラ-1.0」をはじめ、『GOOD LUCK!!』『WATER BOYS』『龍馬伝』映画『ALWAYS 三丁目の夕日』『るろうに剣心』などドラマ映画ファンなら一度は聞いたことがある作品で劇伴を手掛けてきた佐藤直紀氏。ここでは佐藤氏に本作での制作秘話や、劇伴の役割について語ってもらった。 本作の劇伴制作は7月の中旬ころからスタート。そのころはクランクイン前だったため、まずは台本を読み込みイメージを膨らませたという。「壮大な物語、それからシリアスな側面もある脚本なので、もし僕のイメージだけで作るのならもっとスケール感と重厚感たっぷりの音楽になっていたかも。塚原あゆ子監督の“希望”や“当時の活気を再現したい”“ワクワクするような音楽が欲しい”とのリクエストをいただき、前向きで躍動感あるキラキラした音楽を目指しました」と、佐藤氏。キャストがクランクインし撮影が始まると、制作途中の短い動画が届き、その映像から感じとれた作品の空気感も作曲するうえでヒントになったという。 ドラマの音楽制作と聞くと、扱う題材を綿密に調べて作品の世界にどっぷり浸かりながら行うのかと思いきや、「僕の場合、あまりにも深く調べすぎて題材にのめり込んでしまうと、独自の解釈が強くなってしまい、作品が伝えたいこととのギャップができてしまうことがあるんです。なので、あくまで制作の最終ヒントとしては、監督とプロデューサーの思い、脚本、それからもし映像があるのであればそこから感じられる空気感と匂いです」と、作品との向き合い方を明かす。 さらに、「制作中は夢中になって取り組んでいるのですが、ずっと入り込んだ状態でいるといつの間にか自分でも気づかないうちに本来の趣旨とはズレた方向に進んでしまうことも。必ず客観的に確認する時間を取り、『本当にこの音楽で合っているのか?』と常に自問自答を繰り返し、自曲を疑いながら作業を進めています」と、制作過程についても触れた。 そんな佐藤氏が劇伴を作曲するうえで常に意識しているのは、“作品との距離感”。映像やストーリーに対して、どの程度の距離感で作曲するか気をつけているという。「感覚的なものなので伝わりづらいかもしれませんが、本作に関しては少なくとも主観的ではないかもしれません。主人公のナレーションがあることで、俯瞰の立場からドラマを見ている印象がありました。音楽もそれに合わせて、寄り添いすぎず、音楽が物語を上から照らしている感じをイメージしました」と、本作ならではの距離感の取り方を説明。 佐藤氏は今回の楽曲について「民放ドラマの音楽としては少し突き放した感じがあるかもしれない」と振り返りつつ、「もっとわかりやすく感情移入しやすい音楽にもできましたが、素晴らしい脚本を音楽が過剰に説明する必要はないと思って」と、制作の方向性を口にする。 さらには、「この作品が、このストーリーが、この映像がどんな音楽を求めているのかを探り、固定概念にとらわれず、時に恐れず挑戦する。作品にとって唯一の音楽を目指して作曲しています」と、自身の姿勢を明かしてくれた。 塚原監督のアイデアで現代の登場人物が過去を振り返る、アメリカ映画「タイタニック」と似た構図で進む物語。劇伴からもその片鱗を感じられることを伝えると、なんと佐藤氏はそのアイデアについて知らなかったのだという。「第1話で船から端島が見えてくるときに流れた曲では、同映画の音楽でも使われたティンホイッスルという楽器を使用しています。でも、もし監督からその話を聞いていたらティンホイッスルは使っていなかったと思います。その勇気はありません。あまりにもベタで恥ずかしいですからね(笑)」と、偶然のエピソードも飛び出した。