空間デザインにも注目! “動く彫刻”を発明した巨匠アレクサンダー・カルダーの個展が開催中。
実際に、カルダー自身、日本を訪れたことはなかった。ただ、本展で作品を目の前にすると、不思議と日本的な感性が潜んでいるように思えてくる。たとえば、学生時代に描いていたという動物のドローイング。その動物の伸びやかな線は「モビール」的な要素を感じさせるが、同時に、墨絵的なムードが見て取れる。また「日本の感性」日本の印象」などと訳せるだろう《Un effet du japonais》と題されたモビール作品は、能の扇のようなフォルムが印象的だ。 こうしたカルダー作品に潜む日本の感性の発露は、コンセプチュアルな会場デザインも後押ししているに違いない。会場には、桜の木や和紙など、日本的な素材を使用したブースも用意され、いわゆるホワイトキューブとは違ったムードでカルダーの作品を鑑賞できる。
「シンプルで馴染み深い日本の自然素材をヒューマンスケールで体感できるように大胆に使いました。鑑賞者を素材が包み込むような空間で、素材とカルダーの作品に潜む美を再発見する機会を作りたいと考えたのです」とは、本展の展示空間のデザインを担当した、後藤ステファニーさんの言葉だ。後藤さんはNY在住の建築家。これまでにも複数のカルダー展の会場デザインに携わってきた。 ちなみに、本展では、3辺の比が3:4:5であるピタゴラス三角形を基準にして展示空間をデザインすることを試みたと後藤さん。「茶室の間取りを畳が決定するように、形式上の単位として、直角三角形を使って空間を構成していきました」(後藤)
なお、三角形はカルダーにとって重要なモチーフでもあったようだ。本展にも三角形のかたちやその表現の可能性を追求した作品が展示されている。ただ、それを踏まえながら、後藤さんが三角形に注目したのは、空間のなかに“見えがくれ”という日本的な概念を取り入れるためでもあったという。 「この “見えがくれ” とは、建築家の槇文彦が、“雲の後ろを通りすぎる月のように、隠れている何かを垣間見ること” と定義した概念。例えば、日本の寺社建築では、ある一点から内部のすべてを見渡せないようになっていることも少なくありません。私はこの “見えがくれ” を、鑑賞者に、頭の中で空間をイメージさせることを促し、儚さと曖昧さのなかで変化する “移ろいの美” を体感させてくれるものだと考えています」(後藤) 宙吊りにした「モビール」を効果的に見せるため、天井を黒にアレンジしたり、照明をスポットライトだけでなく、天井にスクリーンを張り、光を透過させる形でも明かりをとったり、さまざまな工夫が凝らされている。その空間のなかで、時間のなかで、カルダーの作品はどう移ろうかも見どころだろう。 また、展覧会場を順に巡った後、逆回りでも巡ってほしいと後藤さん。「会場は、始まりも終わりもない、無限ループのような空間として考えています。展示物を逆から見ると、また新しいカルダー作品の魅力が発見できるはずです」(後藤)
『カルダー:そよぐ、感じる、日本』
〈麻布台ヒルズ ギャラリー〉東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階。TEL 03 6402 5460。~2024年9月6日(金)。10時~18時(最終入館は17時30分)、金・土曜、祝前日は 10時~19時(最終入館は18時30分)。7月2日(火)、8月6日(火)は休み。一般 1,500円
text_Masanobu Matsumoto editor_Keiko Kusano