スタートダッシュ成功の『マーベル・ライバルズ』 カジュアルな魅力で“課題”を乗り越えられるのか
NetEase Gamesは12月6日、『Marvel Rivals(マーベル・ライバルズ)』をグローバルリリースした。 【画像】新作ヒーローシューター『マーベル・ライバルズ』のスクリーンショット 「マーベル」を題材にした新作ヒーローシューターとして、発表時から話題を集めてきた同タイトル。現時点では、これ以上ないスタートダッシュを決めている。はたして『マーベル・ライバルズ』は現在の勢いを維持し、ジャンルの覇権を握れるだろうか。人気の理由と今後の課題を考えていく。 ■マーベルコミックの人気ヒーロー/ヴィランが一堂に会する新作ヒーローシューター 『マーベル・ライバルズ』は、Marvel GamesとNetEase Gamesが共同で制作した対戦型のチームシューティングだ。プレイヤーは、『アベンジャーズ』や『X-MEN』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『スパイダーマン』といったマーベルコミック作品に登場するヒーロー/ヴィランのなかからお気に入りの1体を選択し、破壊可能なオブジェクトで構成されたダイナミックなマップを舞台に、スーパーパワーを持つヒーローたちによる6vs6のオールスターバトルを繰り広げていく。 各キャラクターは、「ヴァンガード」「デュエリスト」「ストラテジスト」という3つの役割に分類されている。チーム構成や連携を考える戦略性と、ジャンルならではの派手なシューティングアクションを両立している点が同タイトルの特徴である。 『マーベル・ライバルズ』は基本プレイ無料・アイテム課金型で、PlayStation 5、Xbox Series X|S、PC(Steam/Epic Games Store)に対応している。開発/発売を担当したNetEase Gamesはリリース後も、アップデートによってヒーローやマップを追加する予定であることを明らかにしている。 ■支持の背景に独自のカジュアルさ。しかし、そこには課題も 2024年3月の発表以降、「マーベル」シリーズやヒーローシュータージャンルのファンを中心に、その動向が注目されてきた『マーベル・ライバルズ』。12月6日午前9時(日本時間)のサービス開始以降は、そうしたIPの強さと、トレンドを意識したゲームデザインを武器に、大きく支持を広げている。Steamプラットフォームにおける同時接続プレイヤー数は連日、50万に迫っている現状だ。 界隈では同タイトルのゲーム性を、同様の規模でチームバトルを繰り広げる対戦型のシューティングアクション「オーバーウォッチ」シリーズと比較する声が相次いでいる。一部では、そうした両者の類似性をピックアップし、後発の『マーベル・ライバルズ』を『マーベル・ウォッチ』と呼ぶミームも広がっている。 「オーバーウォッチ」シリーズは2016年5月に発売となった同名タイトルを初作とする作品群。2022年10月には、早期アクセスという形ながら、第2作となる『オーバーウォッチ2』がリリースされ、ジャンルを愛好する多くのプレイヤーに支持された。 『マーベル・ライバルズ』とのあいだには、「アメコミ調のグラフィック」「特殊能力を持ったヒーローたちによるアクション」「多人数によるチームバトル」「3種類のロールによる役割分担」といった共通項がある。「オーバーウォッチ」を遊んだ経験がある層にとっては、同タイトルのそうした性質が馴染み深く、プレイに対するハードルが下がった面もあるのかもしれない。 一方で、『マーベル・ライバルズ』には現在のところ、「オーバーウォッチ」に実装されているロールキュー(※)が存在しない。ロールキューとは、バトル開始のためのマッチングに参加する際、あらかじめ選択する予定の役割を申告する仕組みのこと。これにより、プレイヤーは常にチームの構成が崩れない形でバトルを行える。MOBAや本稿で扱うヒーローシューターなど、味方同士の連携が重視されるジャンルでは、ゲーム内に登場するすべての役割が、適切な試合進行のため、勝利のために必要とされやすい。しかし、事前申告なしでのマッチングでは、花形となる役割にプレイヤーが集中しやすく、それぞれが自分の意思を曲げないことで、構成が整わないままゲームがスタートするケースが少なくない。ロールキューは、こうした状況を回避するために生まれた仕組みである。著名な作品では、上述の「オーバーウォッチ」のほか、『League of Legends』などでも採用されている。 おそらく『マーベル・ライバルズ』にロールキューが存在しない背景には、「同システムを適切に運用できるだけのプレイヤー数を確保できるかが、少なくとも開発/リリース段階では読めなかった」「エンタメIPを原作としていることもあり、よりカジュアルにゲームをプレイしてほしかった」といった要素があるのではないか。特に後者に関しては、「オーバーウォッチ」との差別化にもつながっている。『マーベル・ライバルズ』に競技性は求めない、もしくは昨今、加熱する競技性とは距離を置きたいというプレイヤーによって、同タイトルは大きな支持を獲得していると推察する。 もともとチーム対戦型のヒーローシューターは、『Fortnite』や『Apex Legends』などの台頭によってレッドオーシャンと化した反面、それらにかわって覇権を握るような後発タイトルが生まれておらず、新興勢力の登場が待ち望まれている状況があった。上述のような一部の人気作品たちは現在も広く遊ばれているが、リリースからの時間経過がもたらしたマンネリ感によって、プレイヤー離れは加速しつつある。『マーベル・ライバルズ』が支持を集める背景には、そうしたジャンルを取り巻く環境からの影響もあったのかもしれない。 その反面で、『マーベル・ライバルズ』が持つこうしたカジュアルさは、今後の運営に影を落とす可能性もある。リリースから時間が経過し、勝利のための定石が確立されはじめると、コアターゲットでもある熱量の高いプレイヤーには、カジュアル層の多さ、それに由来する知識量の差が精神的な負担となってくるためだ。ロールキューが存在しないことで、彼らが最低条件と考えるチーム構成で戦えないケースも出てきかねない。こうした展開は、現在、同システムを採用していない人気作品が同様に直面する課題でもある。 ストリーマーのk4senが主催するゲームイベント『The k4sen』において、12月18日の開催の競技タイトルとなることが決まった『Pokémon UNITE(ポケモンユナイト)』はその最たる例と言える。覚えなければいけないことが多く、ライトゲーマーにとってはプレイのハードルが高いジャンルの代表だったMOBAを、年齢・性別を問わず愛されるIPと融合させた同作は、そうした狙いどおり、多くのプレイヤーに遊ばれることとなったが、その一方で、知識差や技術差がプレイヤー同士の関係に軋轢を生むケースが少なくない。12月5日に行われた最新のアップデートでマッチングシステムに変更がくわえられた際、上位層を中心に、歓喜の声が上がったことも印象的だった。 はたして『マーベル・ライバルズ』は、こうした問題にうまく対処し、新興勢力としてジャンルの覇権を見据える存在となれるだろうか。今後の運営方針に注目したい。
結木千尋