「銃弾よりも放送の方が深刻」…南北境界地域で「騒音戦争」に絶叫する住民たち
「ここ数年は(北朝鮮が)あんなに騒がず静かだったのに、今はああしているから、戦争が起きるんじゃないかと考えてしまう。心配で眠れない」 仁川市江華郡松海面堂山里(カンファグン・ソンヘミョン・タンサンリ)の「江華花ござテーマ村」で6日午前10時ごろ会ったムン・ジョンブンさん(83)の目が涙でうるんだ。堂山里全域に一晩中鳴り響いた北朝鮮の対南(韓国向け)放送がしばらく止まった時だった。風よけのビニールハウスでコーヒーを飲んでいたムンさんや住民たちは、記者を見ると「ここに一人で泊まったの?怖かったでしょう」と言ってしばらく笑っていた。しかし、「戦争」という単語が出てくると、一瞬で雰囲気が変わった。ムンさんが言った。「戦争はだめだよ。絶対にだめ」 ここ堂山里は北朝鮮と直線距離で約2キロメートルの距離の村だ。6月1日現在で147世帯、355人(男性181人、女性174人)が暮らしているが、ほとんどが先代から長く住んでいる住民だ。対南放送にはもう慣れ切っており、ムンさんのような人たちは北朝鮮の歌を自然に覚えてしまうほどだが、約5カ月前から始まった北朝鮮の新しい「騒音放送」にはここの住民たちもお手上げだ。「ラジオでも歌でもなく変な音を出す」状況のためだ。 ハンギョレは今月4~6日、堂山里で住民たちが体験する対南放送をじかに聞いてみた。村の人たちは「最近は拡声器が故障したのか、音が小さくなった」と言ったが、騒音は宿泊先の二重窓をも貫いて聞こえてきて、一晩中人々を苦しめた。住民たちはこの音を、機械の音、金属音、獣の鳴き声、幽霊の音などと表現したが、その言葉どおり何の音なのか正確に表現できない奇怪な騒音だった。ハンギョレが同じ場所(高麗遷都公園)でそれぞれデシベルを測定してみたところ、放送が止んだときは36だったデシベルは、放送が始まると、消防車のサイレン並みの最大95まで上がった。 住民たちは苦痛を訴えている。堂山里の里長のアン・ヒョチョルさん(67)は「70年代にはここに北朝鮮兵の銃弾が飛んできたりしたが、その時よりも今のほうがもっと深刻だ」とし、「住民たちは夜には睡眠薬を飲んでいる。ストレスのために具合の悪くなった人も多い」と話した。黒いサングラスをかけたアン氏は「私は元々視力は両目とも2.0だったが、先月2日から突然目がかすんでよく見えなくなった。病院では脳から目に行く4番神経がストレスのために問題を起こしたと言われた」と語った。さらに「家で飼っていた7才のボーダーコリーも数日前に死んだ。犬は聴覚がより敏感だというが、動物たちにとっても耐え難いようだ」と話した。 住民たちは口をそろえて「南と北が一緒に放送、ビラ、汚物風船など敵対的な行為を止めなければならない」と話した。特に、この事態が脱北団体の対北朝鮮ビラ散布→北朝鮮の汚物風船散布→対北朝鮮放送再開→北朝鮮の騒音放送再開の順につながっただけに、政府が北朝鮮に向けた放送を止め、北朝鮮へのビラ散布も積極的に阻止すべきだと語った。 ただし、彼らは政府の意志に疑問を抱いている。堂山里セマウル指導者のイ・マンホ氏(64)は、「率直に言って、大統領が対北放送をするなと言えばすぐに止めるだろうし、そうすれば北朝鮮も止めるのではないか」とし、「本人の支持率が最悪に落ち、党内の摩擦も激しいため、この問題を放置して問題にするつもりみたいだ」と語った。 記者が村を出ようとしたとき、ユ・ジェオンさん(84)が「家でお茶でも飲んで行け」と言って引き留めた。ユさんは「以前は北朝鮮からの放送で歌が流れたりして、それを聞いているとこっちの歌と似ていることもあって、同じ血を引いているのが感じられたけど、最近は本当に互いに戦争をするんじゃないかという気がしてならない」とし、「本当に民族の悲劇で、心が痛む」と語った。「10才の時に朝鮮戦争を体験し、兵士らが両親に銃口を向けて人々を撃った姿を全部覚えている」と話した。 「すぐに統一されると思っていたのに、こうして70年が過ぎた。私たちの願いは統一だと信じてきたのに、あの幽霊の声を聞くと、そんなことはもうないように思えてくる。それでも、少なくとも戦争は起こしちゃいけない。戦争というものは絶対にあってはならない」 文・写真/イ・ジュンヒ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)