「沖縄に迫りくる中国軍を迎撃せよ」…緊張感が走った!陸上自衛隊「富士総合火力演習」迫力の現場写真
ロシア戦争に中台の軍事的緊張と、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している。政府は東西冷戦を超える危機と捉えており、自衛隊はいま、創設以来最大規模の大改革を断行中だ。 【画像】リアルな戦闘訓練へ 「富士総合火力演習」緊迫写真 去る5月26日、その危機感をうかがい知ることができる出来事があった。 東富士演習場(静岡県)で富士総合火力演習が行われたのだが――国民に一般公開され、入場券がプラチナチケット化するほどの人気を博し、自衛隊員のリクルートやイメージアップに一役買っていた″ショー″が、今年はまったく別ものとなっていたのである。 富士の裾野には、陸上自衛隊富士学校がある。「学校」と付いているように、ここでは幹部から下士官等にあたる陸曹まで幅広い教育を行っている。その「学生」に実弾射撃を見せ、机上で学んできた火力戦闘というものをリアルに体感してもらうのが「総火演」の本来の目的だった。 それが今年は一般公開もライブ配信も中止。リアルな戦闘訓練となっていた。 想定されているのは従来通り、中国軍の侵攻を念頭に置いた島嶼(とうしょ)防衛だ。 だが、今年の総火演の「標的」は突然現出し、射撃のタイミングも各戦車の裁量に一任されており、演習の「先生」役である富士教導団にも緊張感が走った。 さらに今回、第15即応機動連隊(香川県)から最新装備である16式機動戦闘車が、中部方面特科連隊(兵庫県)からは155㎜りゅう弾砲が派遣されるなど、射撃訓練だけでなく、他部隊による富士への機動展開も盛り込まれていたことで一層、リアルさが増した。夜間射撃訓練も本物の戦場が再現されており、見ている筆者側にも恐怖が伝わってきた。 ◆中国軍の第一波攻撃 自衛隊は今、陸海空が力を合わせて必要とされる場所へと戦力を機動展開する「統合機動防衛力」を完成させつつある。 無数の島々で構成される南西諸島部を守るため、島の全てに部隊を常駐させることはできない。そこで本州や北海道に配置したのが、増援として速やかに駆け付けられる機動力の高い部隊――16式機動戦闘車を中核とした即応機動連隊だ。 この即応機動連隊が急行する日本の最前線とはどこなのか。それは、中国軍による示威行為から見えてくる。 例えば6月2日、中国海軍のフリゲートなど2隻が魚釣島の北西約80㎞を航行し、与那国島と台湾の間を南進した後、宮古海峡を抜けて帰港。4日には宮古海峡を中国空軍の無人偵察・攻撃機が飛行し、沖縄から自衛隊機がスクランブル発進。 9日には再び中国海軍のフリゲートなど4隻が姿を現し、奄美大島付近を航行した後、東シナ海へ抜けている。 こうした事実が、台湾有事発生の際に中国軍が第一波攻撃を仕掛けてくるのが沖縄本島、宮古島、石垣島、そして奄美大島であることを示しているのだ。 中国の台湾侵攻が始まれば、これらの島々に配置された部隊に、中国軍は背後を取られる形となる。台湾周辺海域に急行した米艦隊が中国軍と衝突すれば、海上自衛隊が米艦隊の後方支援や防護を行う。台湾軍の兵士や艦船に救助を要請されれば、集団的自衛権は行使しないと言っても拒むことはできない。台湾有事となれば、件(くだん)の島々は自動的に戦場と化し、日本は中台戦争に巻き込まれるのだ。 今年3月、島々を守るための第2特科団が新編された。この部隊には陸上から艦艇を迎撃できる射程約200㎞の12式地対艦誘導弾を配備した部隊が2個あり、今年度末までにもう1部隊増やし、将来的に長射程のスタンドオフミサイルも配備。1000㎞以遠の敵艦艇を攻撃できる能力を持つことになる。 それでも、島々を制圧されてしまったら――空から第1空挺団、海から水陸機動団が奪還に向かい、16式機動戦闘車を有する即応機動連隊が駆けつける。 今回の総火演では、この奪還戦が一部、再現されており、それが容易ではないことを知ることとなった。一刻の猶予もないほど追い詰められている日本の姿を総火演は浮き彫りにしたのである。 『FRIDAY』2024年6月28日号より 撮影・文:菊池雅之(軍事フォトジャーナリスト)
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