ある教授の試み 前田敦子、有村架純らの作品を教師育成に活用
「君の膵臓をたべたい」小栗旬の板書に注目
釼持氏が映画を観るようになったのは、恩師からの勧めなのだとか。 「昔から教員は学校と家の往復しかしなかったから、これじゃだめだな、って思っていたんです。そんなとき、恩師に『釼持君、映画ぐらい観なきゃだめだよ。月一本は必ず観なさい』と言われて。いまでは年間50本は観ています。最近も『アラジン』と『メン・イン・ブラック インターナショナル』、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』を観たばかり。学生より先に観てなきゃなりませんからね」 楽しげに笑う釼持氏だが、近年、一貫して力を入れているのが板書(ばんしょ=黒板に書くこと)。板書は、話し方と同様、教師にとって必須の技術であるにもかかわらず、苦手な新任教員が増えているのが実情という。 「映画『君の膵臓をたべたい』では、小栗旬が教室で板書するシーンが最初と最後にあって、それを授業で見せるわけ。最初、教師をやめたくてしょうがないときの板書は、生徒がふざけていてもちょっと振り向いたぐらいでまったく気にしないで書いてる。一番最後に彼女の手紙を読んで、退職願を破いて教壇に立ったときは板書しながらしゃがんで一番下まできちんと書いて。そういうシーンを見せて、気が付いたことを書きなさい、ってやってるんです」 もちろん、書き方のテクニカルな面も教える。 「黒板との距離が近いと、下にくるほど右に流れる。曲がってくるんですよ。横書きのときは行頭の位置を合わせようね、とか。だんだん合わなくなってくるから、4行目、5行目にきたら一度下がって全体を観てみようねと。そうすれば全体のバランスがとれる。そういう習慣をつけましょう、と」
教師のクォリティー維持に活用
そのように、映画にはかなり教育に役立つ部分があるのだという。 「ただ、こういうことも教師の質が低下してきたら話せるかなって。目の前のことで精いっぱいでしょ。自分の趣味でも雑学でも、いろんなことから幅広く身につけることを教育に活用し、大事にすべきだと思うんです。子どもたちの前に立つなら」 近年、教員採用試験の倍率が全般的に低下傾向にあることに危機感を抱き、「このままでは教育現場のクォリティーを保てなくなる」と警鐘を鳴らす釼持氏。教育現場における働き方改革なども日夜研究している。エンタテインメントから得られるヒントをうまく教師の人材育成に生かす釼持氏の取り組みに期待したい。 (取材・文・撮影:志和浩司)