メディアがセンセーショナルに取り上げる「ごみ屋敷」、福祉的支援の道は?
声を上げられる仕組みを
――市内では、どのような事例があるのでしょうか。 いろんなお宅がありますが、一番極端な例では、家の周りがぐるっと全部ごみで囲まれていて、ご本人はそれを乗り越えて2階から出入りしています。外がそうなっていると、家の中もそうなっているパターンが多いです。一見整理されているように見えるけれど、実はマンションの共有スペースを占有していて、家の中に戻してくださいと言っても、おそらく部屋の中も物であふれていて戻せないといったケースもあります。外からまったくうかがい知れないような気密性の高いマンションなど、まだ把握できていない所もたくさんあると思われます。 原因としては、数が多いというわけではありませんが、一つは認知症があります。もともとはきれいにしていたけど、分別や、捨てる捨てないの判断が難しくなってくるんです。分別しないとだめだよ、などと怒られるのが嫌でごみを出さなくなって、最初は台所に溜め込み、置き場がなくなると、水回りに行って、お風呂場が使えなくなり、トイレが使えなくなり、気が付くとパンパンになって自分ではどうしようもない状態になっているということがあります。 それから、ご家族がいなくなって、障害や高齢で自分一人ではどうしようもなくなっても、誰かに助けてもらうのはいや、家の中に入ってもらいたくない、という場合もあります。重たいものが運べないだけであれば、資源循環局が「ふれあい収集」という取り組みをやっていて、集積場所まで出さなくても玄関先などに置いてもらえれば、そこまで取りに行きますよというものなんですが、なかなかそういったことも広まっていない部分もあるかもしれないですね。 自分で捨てないだけではなく、よその家から、粗大ごみだけでなく、生ごみなども持ってきてしまう、収集癖があるような方もいて、横浜市ではこれまで統計をとっていませんが、どういう人がそうなってしまうのかというのは本当にさまざまです。親しい方を亡くされた、人に裏切られた、会社を解雇されたなど、いろんな理由で、お年寄りだけでなく若い人たちも、地域や周囲の人間との間に壁を立てていき、その中で誰にも相談できずにじっとしている。そうは言いつつ自分に感心を持ってほしくてごみを溜める方もいる。 困っている方の声がたまたまごみになってあふれているのがごみ屋敷で、たとえば壁を叩いたり、物音を出したりするようなお宅や、猫を何十匹と飼って鳴き声や糞で周りに迷惑をかけるお宅など、困り事はいろんな症状として出てきます。条例を作るにあたって、京都市の事例をかなり参考にさせていただきましたが、ごみだけでなく、犬猫も、まちの困ったことはなんでもやりますよ、というふうになっているんですね。 生活保護を受けている方のお宅にケースワーカーさんが行くと、部屋の中がめちゃくちゃで、ワーカーさんが気を使って片付けたり、介護の申請をしている方をケアマネージャーさんや市の職員が訪ねた時に気付いて、ヘルパーさんに掃除してもらったり、そういったきっかけで片付いた例というのがけっこうあります。私たちが福祉局でこの仕事をやろうよと腰を上げたのは、これからおそらく高齢者だけの世帯や一人暮らしの世帯が増えていく中で、そのような人たちの数がどんどん増えるのではと感じたからです。 具体的に助けを求めて来た人だけにスペシャリスト的に対応したり、たまたま関わりを持った職員に積極性や余力があれば対応するのではなく、今日は大丈夫ですかと、まずこちらからアプローチしていくことが、これからの福祉ではどんどん必要になっていくのだと思います。声を上げてもらえれば、何かできる可能性があるので、声を出せるシステム、あるいは声を聞いてすぐに行けるシステムができれば、これ以上そういったお宅を増やすことを防げるのではと思います。横浜のような大都市で、どうやってそのような仕組みを作っていけるのかというのが、まずこれからの課題ですね。