多数の遺体は本当に「滑走路下」に埋められているのか…硫黄島「地下16メートル」の真実
なぜ日本兵1万人が消えたままなのか、硫黄島で何が起きていたのか。 民間人の上陸が原則禁止された硫黄島に4度上陸し、日米の機密文書も徹底調査したノンフィクション『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』が8刷決定と話題だ。 【写真】日本兵1万人が行方不明、「硫黄島の驚きの光景…」 ふだん本を読まない人にも届き、「イッキ読みした」「熱意に胸打たれた」「泣いた」という読者の声も多く寄せられている。
地下壕の前にて「落下傘部隊」の姿に
「それでは本日の作業を始めます」 滑走路上に団長の声が響いた。団員は皆、ヘルメットを外して、立て坑の方を向いた。「拝礼!」という団長のかけ声と共に、頭を下げた。 硫黄島では、作業前に必ず、この拝礼を行った。その際、ある人は、どうか安全に作業できますようにと心の中で願い、ある人は、どうか皆さん一緒に本土に帰りましょう、と呼びかけた。拝礼は作業の終了後にも行い、その日の作業が無事に済んだことへの感謝を伝えた。「合掌」ではないのは、行政機関の「政教分離」の観点からだろうと思った。 いよいよ始まるマルイチの捜索は総勢16人で行うことになった。5~6人ずつ3班に分かれた。各班は30分交代で内部に入り、「壕底」に積もった土砂を掘る作業を行う。壕の通路の戦争当時の表面を収集団は「壕底」と呼んでいた。その土砂の中に遺骨がないかを確認する。 僕は1班に加わった。楠さんと同じだった。立て坑の周りに集まるように言われた。そこで人生で初めて、工事現場の作業員が高所作業で装着するハーネス(墜落制止用器具)を着けた。両肩、腹部、腰部、両太ももにベルトを巻く姿はまるで、落下傘部隊の兵士だ。 腰部のベルトには、キーホルダーのフックを大きくしたような金具がぶら下がる。これを命綱に着けて転落事故を防ぐのだ。なぜマルイチにはハーネスが必要なのか。まず地下壕内部に繋がる立て坑。これの深さが5メートルある。さらに内部に入ると、深さ16メートルまで続く急斜面がある。地熱による火傷、崩落による生き埋め以外に、転落事故のリスクもあるのだ。この現場活動は、体力のある団員を対象にした志願制だったが、内部に入る直前になって、その理由がよく分かった気がした。