パリ五輪の柔道女子48キロ級で優勝したときの角田夏実

【ベテラン記者コラム】柔よく剛を制す－。笑顔がチャーミングな金メダリストは、熱いチャレンジャー精神を持っている。パリ五輪柔道女子48キロ級金メダルの角田夏実が、体重無差別で争う来年4月の全日本女子選手権に出場すると表明した。五輪メダリストの推薦枠で参戦する。 国内最高峰の舞台である全日本女子選手権は体重無差別で争われるため、出場選手は重量級がほとんど。最軽量級の選手が出場するのはきわめて異例だが、角田は世界選手権優勝者の推薦枠で過去に2度出場している。 最初は、コロナ禍で12月開催に延期された2020年大会で、初戦の2回戦で同じく軽量級の57キロ級から挑戦した玉置桃に敗れた。指導3つをとられての敗戦だった。 2度目はやはり12月開催だった翌2021年大会。初めて重量級の選手と対戦し、初戦の2回戦で78キロ超級で体重105キロだった田中里沙に延長の末、指導3つを引き出して反則勝ちを収めた。続く3回戦では78キロ級の梅津志悠に足車で一本負けしたが、2年連続の挑戦は、まさに「柔よく剛を制す」の精神の表れだった。 角田は身長161センチで、48キロ級では背が高い。そのため減量も厳しく、その様子は自身のYouTubeチャンネルでも紹介している。減量しなくていい全日本女子選手権では、2021年大会は54キロほどで臨んだというが、それでも体重が倍の選手に勝利したのだから恐れ入る。パリ五輪の混合団体では2階級上の57キロ級銅メダリストに完璧な友投げを決めている。 ただ、2020年と21年の両大会は残念ながら講道館での道場で無観客での開催だった。2025年大会は例年どおり4月に日本武道館で行われる。全日本柔道連盟のルール変更で、組み合った状態からなら〝足取り〟も可能になるため、軽量級の選手も攻撃の幅が広がるという。 人気柔道漫画「YAWARA！」（浦沢直樹）では主人公の猪熊柔が48キロ級ながら、祖父の猪熊滋悟郎の意向で全日本女子選手権にも出場して優勝し、体重無差別で実施されたという設定のソウル五輪でも金メダルを獲得している。得意は背負い投げだが、漫画の冒頭ではひったくり犯を高校の制服姿のままあざやかな巴投げで仕留める。5歳のときに父親を巴投げで投げ飛ばし、それを機に父が失踪して武者修行に出てしまう－など、巴投げが重要な要素となっている。 巴投げと腕ひしぎ十字固めが必殺技という、異色の柔道家、角田夏実がリアルYAWARAになるのか。五輪金メダルの実績を引っ提げて臨む4年ぶり3度目の無差別挑戦に注目だ。ちなみに、重量級以外からの優勝者としては、1986年の第1回大会を制した61キロ級（当時）の八戸かおり、2021年大会を制した70キロ級の田中志歩がいる。角田と所属先が同じ男子60キロ級のパリ五輪銅メダリスト、永山竜樹も最軽量級から全日本選手権に出場する。（牧慈）