アジア映画の覚醒 スーパーガールじゃない等身大のヒロイン スター女優がノーメイク「サリー」 貧困家庭に無関心な社会と闘う姿「スノードロップ」
【アジア映画の覚醒~コロナ禍からの反転攻勢~】 スーパーガールやワンダーウーマン…。女性が主人公の映画といえば〝若くて強いヒロイン〟を想像しがちだが、今年の「大阪アジアン映画祭」ではそんな華やかなイメージを覆す女性像が際立つ作品が多かった。 どこにでもいそうな等身大のヒロインの半生…を描く秀作のひとつが、ジョージア・スイス合作の「ブラックバード、ブラックバード、ブラックベリー」。 ジョージアの田舎で日用品店を営む48歳の女性、エテロ(エカ・チャヴレイシュヴィリ)は渓谷へブラックベリーを摘みに出掛け、崖から落ちて死にかける。この体験を機に彼女の人生が変わり始める。村人の古臭い偏見にも物おじしない自尊心が芽生え始め…。 気鋭のエレーヌ・ナヴェリアーニ監督がジョージアから女性のエンパワーメントを力強く訴える。 台湾・仏合作「サリー」では、台中の山奥で養鶏農家を営む独身女性、リン(エスター・リウ)は叔母から見合いを勧められるが興味がない。めいに「サリー」のハンドルネームでマッチングアプリに登録され、メールで男性との交際が始まり…。 スター女優のリウがノーメークで山村でたくましく生きるリンを体現。ドラマの演出で鍛えたテレビマン、リエン・ジエンホン監督の長編デビュー作は、次作を期待させる渾身の1本だ。 日本からも力強い一作「スノードロップ」がコンペ部門にエントリー。 母と暮らす直子(西原亜希)の家に蒸発中の父が突然帰宅。10年が過ぎ、母は認知症を患い、直子は介護に行き詰まり、生活保護を申請するが…。親の介護を10年続け中年になった直子がひとり、貧困家庭に無関心な社会と闘う姿は心揺さぶられる。 「けがで入院し一時期生活保護を受けていた」と吉田浩太監督は吐露し、西原は「両親が離婚し、父とずっと会っていない自分を直子に重ね合わせました」と打ち明けた。 若くはないし、力が強いわけでもない。しかし、したたかに社会を生き抜く魂は負けない。そんな闘うヒロインは私たちの身近にいる―。そう映画が教えてくれる。 (波多野康雅)