なぜ作家・下重暁子は今も「清少納言」に唸らされるのか…「<いとをかし>と感じる心、季節の変化に気づく余裕を取り戻したい」
2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』で注目を集める平安時代。主人公の紫式部のライバルであり、同時代に才能を発揮した作家、清少納言はどんな女性だったのでしょうか。「私は紫式部より清少納言のほうが断然好き」と公言してはばからない作家、下重暁子氏が、「枕草子」の魅力をわかりやすく解説します。縮こまらず、何事も面白がりながら、しかし一人の個として意見を持つ。清少納言の人間的魅力とその生き方は、現代の私たちに多くのことを教えてくれます。 【書影】下重暁子が迫る、清少納言の才能と魅力『ひとりになったら、ひとりにふさわしく 私の清少納言考』 * * * * * * * ◆季節の移り変わりの「いとをかし」を愉しむ 『春はあけぼの。やうやうしろくなり行く、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。』 この、第一段を何回読んだことだろう。この文章を書き始めるにあたって、私は何も見ずに書いてみた。書けた! ちゃんとおぼえていた。感激だった。 私のどこかに「枕草子」が、清少納言が住んでいる。それを呼びもどし思い出せばいい。 送り仮名が少し違っていたが、学生時代に憶えたものは生きている。 かつて曙というハワイ出身の大相撲の横綱がいた。彼はサインを頼まれると、「春はあけぼの 曙」と書いたこともあるという。ハワイ出身の横綱が「枕草子」を知っていたのだ。誰かが教えたにちがいないが。 かつて放送局に勤めていた頃、朝早い生番組に毎日出ていたことがある。 まだうす暗いうちに起き出して迎えの車に乗ると、空が少しずつ明けてくる、その微妙な変化に見とれた。 やうやうしろくなり行く山ぎは少しあかりて、しらみつつある山際の空が明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいているのがいい。 一昨年(2022)年まで三年ほどフジテレビの早朝生番組のコメンテーターとして一ヵ月に一回通っていた。 新型コロナが感染拡大した時も番組が続く限り、その時も迎えの車の中で朝を迎える。お台場まで高速に乗りレインボーブリッジを渡る。その頃街は目ざめ、山ぎわならぬ高層ビルの上の空が少しずつ明るんできた。時代変われどあけぼのは毎朝訪れる。
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