在日ネットヘイトめぐる裁判、安田菜津紀さん控訴審勝訴も「差別」認めぬ判決には不満
フォトジャーナリストの安田菜津紀さん(36歳)が在日コリアン2世の父と自身への差別的な投稿をツイッター(現Ⅹ)上でされて精神的苦痛を受けたとして、西日本に住む男性に195万円の損害賠償を求めた控訴審の判決が2月21日にあった。東京高裁(吉田徹裁判長)は投稿を「差別的表現による侮辱」と認めて賠償33万円を命じた一審判決を支持。男性と安田さんの双方の控訴を棄却した。 日本国籍を後に取得していた父について安田さんは2020年12月、「在日コリアンだと知ったのは死後だった」と投稿。これに対し、男性が朝鮮半島出身者らへの差別用語を使い「お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」などと書き込んだ。控訴審で安田さん側は、男性の投稿は単なる侮辱ではなく差別的言動解消法に定める「差別的言動」にあたり悪質だと主張。だが判決は「差別的言動解消法はいわゆる理念法」であり「一概に差別的言動の方が悪質とは言えない」として退けた。 過去には在日韓国・朝鮮人への「差別」を認めて処罰を重くした判決が出ている。14年7月、大阪高裁は京都朝鮮学園への「在日特権を許さない市民の会」の街宣活動を「人種差別撤廃条約で禁じる人種差別に当たる」と認定。約1200万円の損害賠償を命じた(最高裁で同年12月確定)。23年10月には横浜地裁川崎支部が川崎市在住の在日コリアン3世の女性へのネット上の差別的な書き込みが「ヘイトスピーチ解消法の不当な差別的言動にあたる」と判断し、投稿者に194万円の賠償を命令。また、部落差別をめぐる裁判では東京高裁が23年6月、被差別部落の地名リストの復刻出版の禁止を求めた原告らには「差別されない人格的利益」があると認めた。 この裁判で安田さんの代理人を務める神原元弁護士は「こうした流れからして今回の判決はパッとしない。もう一歩踏み込んで、差別的言動と認めてほしかった」。同じく代理人の師岡康子弁護士も「差別による人格権の侵害は一般的な侮辱とは異なり、その人の人格を非常に深く傷つけると認められつつある。十分に保護されるべき法益だ」と指摘した。