「金正男暗殺」実行犯の女性2人の知られざる「現在の暮らし」 「SNSの更新もストップし、表立った活動は…」
彼女らに暗殺の意図はあったのか
ところが、ドアンとシティに金正男暗殺の意図があったとする当局の見立てには首をかしげる向きも多かった。その理由は、彼女らが“暗殺の実行役”としてリクルートされた経緯にある。 「ドアンは大学卒業後、就職がうまくいかず、女優として生きていくことを夢見てオーディションを受けていました。そんな折、かつての仕事先の同僚から『イタズラ動画の出演者を探している人がいる』とプロデューサーに扮した北朝鮮工作員を紹介されたのです」 一方のシティもリクルートされた方法に大差はない。 「シティはインドネシア出身ですが、家が貧しく小学校の卒業と同時に首都・ジャカルタに上京し縫製工場で働くようになった。そこで結婚して17歳のときに長男をもうけますが、数年で離婚。長男は夫の実家に引き取られ、彼女は仕事を求めてクアラルンプールに移り住んだのです。しかし、マレーシアで彼女が得た仕事といえば性的サービスを伴うマッサージ店くらい。周囲に『女優になりたい』と話していたシティは、やはり知人からイタズラ動画の出演者を探しているというプロデューサーを紹介され、北朝鮮の工作員にからめ捕られてしまったのです」
本当にドッキリだと思っていた可能性
2人の女性はここから数カ月にわたって「日本で放送するイタズラ動画の撮影」という名目で、見ず知らずの他人の体にベビーオイルをつけたり、後ろから目隠しをしたりする「ドッキリ」を繰り返すことになる。 「確かに、 結果的には全てが金正男の顔にVXを塗布する“訓練”になっていたわけですが、彼女らはその様子も全てSNSで発信していた。これから暗殺をしようとする者が不用意に自らの手の内を明かすことは考えにくく、『イタズラ動画で有名になれる』と信じて指示に従っていたと考えるのが自然です。しかし、自国の玄関口でやすやすと要人暗殺を遂げられたマレーシア当局には、せめて実行役だけでも有罪にしてメンツを保たなければという焦りがあった」 結果、検察側の立証が終わった段階で、裁判所から2人の女性に申し渡された“心証”は、「イタズラ動画の撮影には見えず、暗殺の訓練だったと考えるのが自然」、つまり有罪相当というものだった。 当時のマレーシアの法律では、殺人罪の法定刑は死刑のみ。被告人である彼女らが検察側の主張を覆せなければ、有無を言わさず死刑が宣告される絶体絶命の立場に置かれたのである。