ヒット連発のNetflixでドラマ化決定! 直木賞作家・今村翔吾が仕掛ける「明治時代×デスゲーム」の究極エンタメ小説 #京都が舞台の物語【書評】
明治時代を舞台にデスゲームが展開するエンタメ小説「イクサガミ」シリーズ(今村翔吾/講談社文庫)は、岡田准一と藤井道人監督がタッグを組み、Netflixでドラマ化も決まっている。今、最も話題の時代小説と言っても過言ではない。
『塞王の楯』で、第166回直木賞を受賞した今村翔吾氏による本シリーズは、発売済みの「天」「地」のほか、今後発売となる「人」「神」の全4巻構成の予定だという。本稿では、第1巻『イクサガミ 天』と第2巻『イクサガミ 地』の内容から、シリーズの魅力をひもといてみたい。 深夜の京都・天龍寺に集められた「武技ニ優レタル者」たちは、金十万円を求めて殺し合いを始める。 主人公の嵯峨愁二郎(さが・しゅうじろう)は、幕末を生き延びた指折りの剣豪だった男。だが妻子の病を治すのにどうしても大金が必要であったため、この奇怪なデスゲーム〈こどく〉に参加する。 ルールは簡単だ。参加者全員に配られた木札を1点とし、定められた複数の場所を通過するために必要な点数を奪い合いながら、京都から東京を競走するというもの。 参加者は皆、金が欲しくて集まった者たち。木札を集めるため汚い手段を使い、殺し合い、奪い合い、時に協力し合い、はたまた騙し合いの道中を繰り広げる。そんな中、愁二郎は同じく家族のために参加していた少女・双葉のことが放っておけず、行動を共にする。 それぞれの野望や悲願を胸に、〈こどく〉に参加した個性豊かなキャラクターたちのほか、愁二郎の“義兄弟”らも登場し、流儀「京八流」を巡る“苛烈な因縁”も明らかになる。 果たして愁二郎は双葉と共に〈こどく〉を勝ち抜くことができるのか……!? というのが、「イクサガミ」シリーズのあらすじだ。 第2巻である『イクサガミ 地』も、そういった緊張感溢れる活劇を堪能できるのはもちろんなのだが、本作では特に「このデスゲームはなぜ仕組まれたのか?」という謎にも迫っている。一体誰が、何の目的で、このような大掛かりなことをしたのか。その黒幕が明らかになる過程には、明治11年当時の「社会的風潮」が絡んでいる。 この「歴史的背景をフィクションに活かす」発想力・創造力が、伝統ある直木賞を受賞した著者・今村氏の“本領発揮”に感じ、読んでいてゾクゾクしてしまった。 もしかしたら第1巻「天」は、“正統派”時代小説を求めた読者にとっては、エンタメ色の強さから、やや物足りなさがあったかもしれない。だが「地」では、今村氏が描き続けてきた“硬派さ”も色濃く感じることができる。時代小説としての重厚さもプラスされつつ、エンタメ活劇の切れ味も失っていない。「天」の面白さが、「地」で更に強化されている。 また「天」は、創作されたキャラクターの活躍が多かったが、「地」では大久保利通や前島密、沖田総司など、実在した人物も多数登場する。これもまた従来の時代小説好きの心を掴む要因になるのではないだろうか。 本作は全4巻構成。11月にはいよいよ3巻目の「人」が発売になる。 この陰惨なデスゲームの中で、双葉という純粋な優しさを持つ存在がどのような化学反応を引き起こすのか。愁二郎と義兄弟は、自分たちの命を狙う暗殺者を闇に葬り、平穏な日々を得ることができるのか。 更なる謎と剣戟が加速する第3巻を心待ちにしながら、本記事を締め括りたいと思う。 文=雨野裾