イチローが野村克也氏の記録更新に素っ気なかった理由
20年以上に渡って出場を続けるだけでも、大変なはずだが、まだまだ先のキャリアを見据える彼には、この段階で喜ぶわけにはいかない、とも考える。 「僕がヨボヨボのじいちゃんなら、それはそうかもしれないけど」 少し前のことだが、イチローに、大きなケガをすることなく長くプレイを続ける価値観について聞いたことがある。すると、返ってきたのは、この一言だった。 「僕、いくらもらっていると思います?」 それなりのお金をもらっている以上、出場することは当たり前。そのことを評価されても困る、とでも言わんばかりで、毎日のようにフル出場することですら、その程度の価値観だった。実際には、故障で戦列を離れる選手の方が多く、イチローの方が稀。ケガの中には、アクシデントも含まれるはずだが、イチローは、その可能性すら排除し、フィールドに立ち続ける。2001年以降では、イチローがメジャーの中で最も多くの試合に出場しているものの、そのことを自らは評価しようとしない。 今回、改めて記録に並んだことの意味を聞かれても、イチローはきっぱりと言った。 「人がどう思うかは勝手だけど、僕の中には、ない」 日本最多出場記録を更新した9日、イチローが、代走で起用されても、当然ながら球場内で、その記録が紹介されることはなかった。それなりに重みのある記録だが、あの代走のあと、イチローが何ら表情に変化を見せなかったのと同様、試合は、何ごともなかったかのように過ぎていった。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)