進撃の「ガチ中華」#2…東京在住の四川人が教えてくれた“成都より旨い麻婆豆腐”の店「逸品火鍋」は池袋にあった
皮蛋豆腐で店の「風格」を知る
焼椒皮蛋豆腐が先に運ばれてきた。豆腐をピラミッドのように立て、そこに皮蛋(ピータン)を刻んでまぶしたピーナッツバターの甘辛ソースをかけ、香菜(パクチー)と白胡麻を振ってある。 豆腐を待つ間に豆腐を食するというのも愚行だが、これがまた美味である。つい箸を進めるスピードが上がる。 余談ではあるが、初めて入った中華料理屋では、まず皮蛋豆腐を注文してみることをお勧めする。中華における皮蛋豆腐とは、寿司屋における「玉」のようなもので、その店の「風格」が窺い知れる。つまり簡単な料理にも手間暇かけているかの差が、如実に表れるのだ。
「八美」が備わる麻婆豆腐
さて、いよいよやって来ました、麻婆豆腐。いい色合いだ。 これも「本場」で教わったことだが、麻婆豆腐には「八美」(8つの美)が備わっているという。漢字で書くと、「麻、辣、湯火(湯の下に火)、香、酥、嫩、鮮、活」。 それぞれ「麻」(マー)は「花椒」(中華胡椒)の痺れ。「辣」(ラ―)は赤唐辛子のピリ辛。「湯火」(タン)は熱さ、特に豆腐のホット感。「香」(シアン)は「花椒」その他の香り立つ匂い。「酥」(スー)は挽肉のサクサクした歯ごたえ。「嫩」(ネン)は豆腐の絹ごしの柔らかさ。「鮮」(シエン)は食材の新鮮さ。そして「活」(フオ)は、豆腐を崩さない活き活きした盛り付けである。 東京で初めて「尻」が反応した。この店の麻婆豆腐には、確かに「八美」が備わっていた。「陳麻婆豆腐」の伝統の味を、どこか受け継いでいる。 と、同時に麻婆豆腐を供された隣席では、カップルが匙で豆腐を掬(すく)い、「ア~ン」と言って互いの口に持っていき、食べさせ合っている。神聖な麻婆豆腐を、そんな食べ方ありか!? そう言えば、本場の「陳麻婆豆腐」は、今世紀に入ってお家騒動が勃発し、別の企業の手に渡った。いまも名は遺し、派手にチェーン展開しているが、その味には幻滅させられる。 麻婆豆腐の進化は歓迎だが、退化していくのは哀しい。(→#3…中国東北地方出身者も「真好吃(ガチで旨い)!」と太鼓版を押す餃子の名店) ---------- 進撃の「ガチ中華」#2 店名: 逸品火鍋 住所: 豊島区西池袋1-39-1-4F・5F (道を隔てたビル4Fの逸品火鍋四季海岸は姉妹店で別店です) ----------
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)