進撃の「ガチ中華」#2…東京在住の四川人が教えてくれた“成都より旨い麻婆豆腐”の店「逸品火鍋」は池袋にあった
本家の味は尻で味わう
成都の陳麻婆豆腐で供された本家の味は、東京の四川飯店で食べ慣れていたものとは、似て非なるものだった。 圧倒するような重量感で、色は「赤」でなく「こげ茶」。そしてひと匙、口に入れたとたん、痺(しび)れが来た。旨い! 食べ進めるうちに、こってり感のある痺れは食道から胃に伝わり、腸を経由して、尻に来た。 「麻婆豆腐には白飯」と言う日本人が多い。だが本場モノは、何も足さない、何も引かない、もうこれ一品で十分腹一杯という代物だった。 「四川料理は尻で食べる」――これは一つの発見だった。 爾来、ドイツの詩人カール・ブッセが詠(うた)ったように、「山のあなたの空遠く、幸い住むと人のいう~」の世界である。すなわち私は、あの味を探し求めて、日本各地を彷徨った。だが、どこへ行っても「涙さしぐみかえりきぬ」(同詩)である。
本場を超える麻婆豆腐の店が池袋に
それが最近になって、東京在住の知人の四川人曰く、「成都より旨い麻婆豆腐の店が東京にある」――教えてくれたのは、逸品火鍋という店だった。なんだ、上記の四川飯店から目と鼻の先にある「池袋ガチ中華エリア」の一角ではないか。 狭いエレベーターで4階に上がると、人は見えぬが、「歓迎光臨!」(いらっしゃいませ)と男女の声がこだまする。左折すると、40席ほどの店内は、若い中国人たちでビッシリ。いまどきの「一人っ子世代」は、ピリ辛に目がないのだ。 店を開けて10年以上経つというから、「ガチ中華の老舗」である。オーナーは四川人ではなく、東北人なのだとか。「でも四川料理は四川人シェフが作っています」(店員) 麻婆豆腐だけ頼んでも寂しいので、冷菜の焼椒皮蛋豆腐(豆腐の焼き唐辛子ソースかけ)も注文する。 周囲を見渡すと、隣席は若い中国人カップルだった。4人掛けの席に、向かい合わずに隣り合って座っている。机の下ではがっちり手を握り合い、ラブラブだ。 会話を聞いていると、二人はそれぞれ別の日本企業で働いているようだった。彼氏は大連の出身で、彼女は都江堰(とこうえん)出身と思われる。都江堰は成都郊外の町で、古代中国の水利技術の粋を集めた「堰」は、一見に値する。