【静岡県・浜松市】藤森照信が手がけた〈秋野不矩美術館〉と、天竜地区を歩く。|甲斐みのりの建築半日散歩
⚫︎日本画と建築が調和する藤森照信建築〈秋野不矩美術館〉。
静岡県浜松市天竜区の二俣町は、古くから交通の要衝として栄えた土地。明治時代には、旅籠宿や料理屋が建ち並んでいたという。登録有形文化財の〈本田宗一郎ものづくり伝承館〉や〈天竜二俣駅〉、味わいのある洋館や看板建築と、建築的な見どころもあまた。今回は、建築家・藤森照信が手がけた〈浜松市秋野不矩(ふく)美術館〉を中心に、浜松の建築を巡りました。 【フォトギャラリーを見る】 浜松市・二俣町を見晴らす小高い丘の上に建つ〈浜松市秋野不矩美術館〉は、二俣町生まれの日本画家・秋野不矩さんが、藤森照信の建築家としてのデビュー作〈神長官守矢史料館〉に惚れ込んで設計を依頼し、1998(平成10)年に開館した。 「西洋絵画の特質を取り入れ新しい日本画を創造してきた不矩さんは、54歳のときにインドの大学に日本画の客員教授として招かれて以来、人々の生活や動植物の強く逞しい姿に心打たれ、インドの風景・人・寺院などをモチーフにした作品を制作しました。不矩さんの作品は、岩絵具を用いることで表面がざらざらしているものが多く、この建物も、不矩さんの作品をより美しく引き立てるよう、ざらざらとした質感を取り入れています。ホールの柱や梁をチェーンソーで削ったり、上部をバーナーで焼いて炭化させたり。モルタルの外壁にも内部の白い漆喰にも、藁を混ぜることでざらざらとした質感を出しています」。 こんなふうに案内してくださったのは、館長の鈴木英司さん。チェーンソーやバーナーを使う作業には、藤森氏とその友人から結成される「縄文建築団」や、不矩さんの息子さんも参加したという。
藤森氏はインテリア全体が不矩さんの作品のキャンバスと化すように、展示室の形はできるだけ簡素な四角形に設計。キャンバスの一部である床を土足で歩くことはできないと、展示室に至る前に履物を脱ぎ、裸足で鑑賞できるようにと考えた。第1展示室の床には籐ござを、第2展示室の床には大理石を敷き詰めている。直に床に座って作品と向き合うことができるよう、通常の美術館よりやや低い位置に展示されているのもここならでは。足の裏から全身で、不矩さんの作品を感じることができる。