テロリスト「拷問」で米上院がCIAを糾弾 法的責任は問えるのか? 国際政治アナリスト・菅原出
12月9日に米上院情報特別委員会が、米中央情報局(CIA)の実施したテロ容疑者に対する尋問プログラムに関する報告書の一部を公開したことが、米国内外で大きな波紋を広げています。 CIAは2001年9月11日の同時多発テロ以降、ブッシュ大統領(当時)が始めたいわゆる対テロ戦争の中で、国際テロ組織アルカイダに関係するテロ容疑者を世界中で逮捕し、各地の秘密収容所やキューバにある米海軍収容所に強制連行して拘束し、「拷問」したことが分かっています。2009年~2013年にかけて、米上院情報特別委員会の民主党スタッフがこの問題について調査し、6700ページにのぼる極秘報告書を作成しましたが、今回その要約にあたる525ページが一般に公開されたのです。 この報告書で明らかにされたのは、CIAが採用した「強化尋問手法(EIT)」と呼ばれる尋問テクニックの数々やその効果についてであり、睡眠剥奪や水責め、閉所への監禁や無理な姿勢の強制など、肉体的・精神的な苦痛を伴う尋問の実態でした。こうした手法はこれまでもジャーナリストや人権団体等によって暴露されていましたが、今回の報告書は、CIAの拘束・尋問プログラムの全体像やEITの詳細を明らかにしたこと、そしてこうしたプログラムの実際の効果が乏しかった点を指摘している点が特徴的です。 報告書では、CIAが119名の容疑者を秘密収容所に収容して尋問を行い、その中の39名がEITの対象となったことが明らかにされています。ちなみにこれは、アフガニスタンなどで軍事作戦を実施している米軍が敵性戦闘員を捕虜として拘束したのとはまったく別の、CIAが独自に実施した強制連行プログラムのことです。
911テロ後、米政府はアフガニスタンに米軍を送ってアルカイダ及びタリバンとの戦争を開始しましたが、それとは別にCIAに対して、世界各地で活動するアルカイダ系テロリストを探し出し、彼らの新たなテロ計画を潰すためにテロ容疑者を秘かに逮捕する任務を与えました。これ自体、超法規的な措置だったのですが、この作戦を通じて拘束された者たちも、法的な枠組み外の存在という扱いがなされました。 通常、軍が敵性戦闘員を捕虜として拘束した場合、ジュネーブ条約の下で捕虜に人道的な配慮をする義務が生じますが、ブッシュ大統領(当時)は2002年2月に「アルカイダとタリバンの拘束者はジュネーブ条約における捕虜の要件を満たしておらず、よって同条約が定める戦時下の敵性戦闘員に対する人道的扱いは、タリバンやアルカイダには適用されない」という大統領令に調印しました。 この新たな方針の下、CIAは「テロを防ぎ、犠牲者の命を救う」という目的のためには、ジュネーブ条約から逸脱しても構わない、すなわち「拷問」も許されるという解釈をするようになりました。 こうした背景の下でEITが開発・適用されていきました。例えば拘束者は、手を頭の上や身体の後で縛られたまま180時間連続で起立を強制させられて睡眠を剥奪されたり、氷水の浴槽に入ることを強制させられたり、顔の上に濡れタオルを被せ上から水を垂らして窒息寸前まで追い込まれ、自白を強要されました。こうした厳しい尋問の過程で少なくとも一人の拘束者が低体温症で死亡し、もう一人が窒息死していたことが分かっています。この窒息死したイラク人の拘束者は、肋骨も5本折られており、激しい虐待を受けていたことが疑われています。