テロリスト「拷問」で米上院がCIAを糾弾 法的責任は問えるのか? 国際政治アナリスト・菅原出
それでもCIA関係者は訴追されない
この報告書の発表を受けて、アフガニスタン、ロシア、イランや中国政府が米国を非難する声明を発表しただけでなく、国連人権委員会の特別調査官ベン・エマーソン氏も「今日明らかにされた犯罪的陰謀に責任のある個人は司法の裁きを受け、この犯罪の重大さに応じた刑罰を受けなければならない」と述べており、CIAの拷問に責任のある者を刑事告発すべきとの声が出ています。 こうした国際的な非難の声を受けて、今後CIAの拷問に関係した人が訴追される可能性はあるのでしょうか? 拷問を禁ずる国際法としては、先に上げたジュネーブ条約が「捕虜からいかなる種類の情報を得るためにも、これに肉体的または精神的拷問を加えてはならない」と規定しています。アメリカは1997年に戦争犯罪法(合衆国法典第18編第2441条)を制定して、こうしたジュネーブ条約違反の行為に刑罰を科すことにしています。 また、アメリカは「拷問および他の残虐な、非人道的または品位を傷つける取り扱いまたは刑罰に関する条約(拷問等禁止条約)」にも1988年に調印し、1994年に批准しています。この条約では、「戦争状態、戦争の脅威、内政の不安定または他の公の緊急事態であるかどうかに関わらず、いかなる例外的な事態も拷問を正当化する根拠として援用することはできない」と定められており、「拷問」とは「身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず人に重い苦痛を故意に与える行為であって、本人もしくは第3者から情報もしくは自白を得ること」を目的として行われるものと定義されています。アメリカは合衆国法典第18編第2340条でこの条約違反者に刑罰を科す国内法を制定しています。 つまり、拷問はこれらの国際法やそれに対応したアメリカの国内法にも抵触する行為となっています。
しかし、結論から言えば、今回の上院の報告書にもかかわらず、このCIAの尋問プログラムに関わった人が訴追される可能性は非常に低いと考えられます。そもそもこの上院情報特別委員会の調査の目的が、「CIAの尋問プログラムを見直し、将来の拘束・尋問政策に寄与すること」となっており、この報告書自体も、「将来強制的な尋問が行われることを防ぐ目的で役立ててほしい」としてホワイトハウス、CIA、司法省、国防総省、国務省や国家情報長官事務所に送られただけです。 この上院特別委員会の調査自体に共和党のメンバーは参加しておらず、この報告書は民主党のスタッフだけで書かれており、共和党員の5人に4人はCIAの尋問プログラムは「受け入れられる」としてこの調査自体に批判的です。また、民主党員の中でも「CIAの行為は行き過ぎだった」と考えているのは44%に止まり、32%は「受け入れられる」としてCIAの「拷問」を事実上認める空気が存在します。先の中間選挙の結果、上院でも共和党が多数派を占めることになりますので、来年以降の新議会でこの問題がさらに取り上げられたり、CIAを追及する動きは出てこないでしょう。