見過ごしがちな世界遺産のリアル。屋久島の美しい山に“綺麗な海”が必要である理由
海中のゴミも深刻だ。漁網や釣り糸、ペットボトル、タイヤや一升瓶など、さまざまなゴミが海底に沈んでいて、サンゴ礁を傷つける要因にもなっている。 だが、これまで屋久島では山と比べると海の環境保全が遅れていたという。
「屋久島のふるさと納税では、寄付者の方から『自然環境保護に活用してほしい』という声を多くいただくのですが、山に比べて、海の保全にまでなかなか着手をできずにいました」(屋久島町観光まちづくり課・岩川 健さん)
そこで2022年に立ち上がったのが、ふるさと納税を活用した「海・川・山のつながりで屋久島の自然を守る!プロジェクト」だ。 そのひとつが地元のダイビング業者と連携して行う海の清掃活動である。
ダイバーは漁船に乗って沖合に出て、ダイビングで潜水し、1回30分、計2回の清掃を1日で行う。ただゴミを拾うだけではなく、サンゴを傷つけないように引っかかった釣り糸を取り除くなど、神経を使う作業も行われている。 この清掃に同行させてもらったが、30分の清掃だけで、ロープ、釣り糸、ルアー、ペットボトル、陶器、さらには大きな木の板まで回収された。
他にも、海からダイバーが泳いで上陸する海岸での清掃や、地元住民と協力したビーチクリーン活動も実施。2023年度は計12日の作業で、フレコンバッグ(廃棄部など輸送するためのバッグ)約32袋分ものゴミが回収されたというのだから、どれだけ海洋ゴミの問題が深刻なのかが分かる。
また、オーバーツーリズムで海の環境が破壊されないよう、2023年には国連環境計画(UNEP)が制定する、持続可能なダイビング・シュノーケリングガイドライン「Green Fins」への取り組みと推進を開始した。 これは錨の使用や魚への餌やり、化学物質汚染など、海の環境や海洋生物に悪影響を及ぼすことや、サンゴ礁の負担を減らすためのアクションをダイビング・シュノーケリング業界に周知し、ダイビング事業者が「Green Fins」への認定を目指すというもの。 例えば、旅先でダイビングショップを利用する際に、認定資格を得ている業者を選べば、自ずと海洋環境保全に協力をしているということになるのだから、海を愛する人なら、覚えておきたい認証制度だ。
屋久島の海を守るための取り組みは、まだ始まったばかりだが、海底ゴミの減少など、少しずつ効果も現れ始めている。 屋久島の沢水は清澄だが、その水源は海。長く美しい自然と水を楽しむためにも、海を守ることが大切なのだ。 林田順子=取材・文
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