流行する「搾乳動画」の人々に気づかせない「発明」とは?
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「搾乳動画」について。 * * * 搾乳(さくにゅう)とその乳首を男性がこれほど眺めた時代があっただろうか。YouTubeに若い女性の「搾乳の実演動画」があふれた。SNSで人気インフルエンサーが取り上げたことで、類似の動画がさらに爆増した。 乳首のアップは動画ポリシーに反しているはずだ。しかし教育・科学目的となっていれば放置されている。もちろん実際には教育目的のはずがなく、この原稿が世に出るころには削除されている可能性があるね。 Facebookの詐欺広告の存在は、Meta社員が一ユーザーとして使用したときに気づいていたはずだ。だから本来は早く取り締まればよかった。 おなじくAlphabetやYouTubeの社員が搾乳動画を見れば、その目的が視聴回数稼ぎで、医学的に貴重なコンテンツなどではないとわかるはずだ。ほんとうに搾乳の知識を得たいなら、医師や看護師が説明する別の真面目な――もちろん脱ぎもしない――動画を見たほうが有益だ。 これを読んだ読者が確認した時点で、すでに動画群は削除されているかもしれない。ただ、それでも非常に示唆的な流行だったので、以下に気づきを書いておきたい。 ①いたちごっこが続くこと。 医学的コンテンツで真面目に性器などについて説明するのは社会の進化に重要だ。ただ、性的な意味で消費する人たちを止めることはできない。 さらに、医学フェイクなコンテンツも現代ではすぐにアップロードできる。ポリシーをかいくぐるコンテンツは今後も登場するはずで、SNS各社はコストをかけて監視するだろう。 ②ビジネス目的であること。 相当数の搾乳動画は、YouTubeからXに飛ばす仕掛けになっている。Xで日常のセクシャルな写真を見せ、さらに自己紹介欄のURLから、素人が写真等を販売するアダルトサイトに誘導している。 メディアミックスならぬSNSミックスでビジネス導線が設計されている。高度化しているなあ。 ③AIを活用していること。 以前この連載で、私の分身をAIで生成した経験を書いた。私自身がAI分身との違いがわからなかった。 搾乳動画すべてを確認したわけではないが、いくつかの動画は少なくとも顔はAIによるものだった。明らかに口の動きとセリフが合っていない。体は判断が難しいものの、顔だけをAIで変換したと私は予想する。 もっとも仮に体をAIで生成したにしても、元のデータは生身の人間なのだが。 発明的だったのは、搾乳動画の冒頭部分以降、視聴者は顔を見ずに乳首に注目してしまうため、ズレに気づかないひとが多かった点だ。コメント欄にはAIと考えていない人たちがたくさんいたようだ。うむ(笑)。 たとえば、これらの搾乳動画がすべてAIだとする。そうだとわかったら失望するか? これは哲学的テーマなのではないだろうか。見分けがつかなくても、なぜか生身の人間であってほしい、という願い。性的なコンテンツをAIが代替すれば性的搾取が減り社会的にはポジティブかもしれない。しかし、それでも生身の人間を求めてしまうのだろうか。 そして最後に、 ④やってられないこと。 私はビジネス関連の書き手だが、搾乳ビューの数十分の一にしか至らない。やるせない。私の46年間の人生は搾乳の乳首に負けた。「胸」のすくような結論ではなさそうだ。