【インタビュー】LL・クール・J、11年ぶりの新作に込めた「ヒップホップへの愛」
ファンを驚かせる「社会派の歌詞」
3曲目の「サタデー・ナイト・スペシャル」は、大物ラッパーのリック・ロスとファット・ジョーの参加を得て、ストリートの現実にさらされるギャングの生きざまを歌う。 6曲目の「プロクリビティーズ」は、若者に大人気の女性ラッパーであるスウィーティーとのなまめかしいラブソングだ(これもLLがラップにもたらしたジャンルだ)。続く「ポストモダン」では、80年代のLLを彷彿とさせるラップを聴くことができる。 ほかにも「プレイズ・ヒム」ではNAS、「ヒューイ・イン・ザ・チェア」でバスタ・ライムス、「マーダーグラム・ドゥ」でエミネムなど、ベテラン人気ラッパーがこぞって参加しており、さすがLLの新作だとうならずにはいられない。 目立つ社会派の歌詞 ただし多くのファンが驚くのは、新作にアメリカ社会における黒人の文化や生き方を扱った歌詞が目立つことかもしれない。 例えば、4曲目の「ブラック・コード・スイート」では母親の料理から始まって、スティービー・ワンダーやデューク・エリントンなど黒人文化を語り、10曲目の「ヒューイ・イン・ザ・チェア」は急進的な公民権運動を展開した組織ブラック・パンサーの共同創始者ヒューイ・ニュートンを題材にしている。 社会派とでも呼ぶべき作風は、1曲目の「スピリット・オブ・サイラス」から顕著だ。これは、13年に元ロサンゼルス市警の警官クリストファー・ドーナーが、同僚ら4人を殺害した事件を、ドーナーの視点から語る体裁になっている。事件前に解雇されていたドーナーは、犯罪被疑者に対する過剰な暴力を内部告発したことが解雇につながったと主張していた。 通常ならパブリック・エネミーあたりが曲にしそうなテーマだ。しかも10年以上前の事件について、なぜLLは曲を書くことにしたのか。 当時、LLは警察関係者や友人から、「君は見た目がドーナーに似ているから、ドーナーの身柄が確保されるまで外出しないほうがいい」と忠告されたのだという。 「ラッパーとして、あらゆる人種やジェンダーを受け入れ、尊重しているつもりだ。でも世の中で起きていることを扱わないのは、アーティストとして無責任だし臆病だと思った」と、LLは語る。「自分の文化のために声を上げないでどうする? 『NCISに出演してがっぽり儲けた』とでも歌えばいいのか」 ヒップホップは昨年、誕生から50周年を迎え、40代や50代のラッパーも増えた。それだけにLLは、ヒップホップは若者だけの音楽ではないことを証明したいと考えている。「LL・クール・Jがラップのアルバムを発表しなかったら、世界を、そして自分自身をだましている気がする」
ウィリアム・ケッチャム(音楽ライター)