NewJeansやJP THE WAVYら“最先端”と交わる村上隆 その作家性と精神性、見据える未来とは?
NFTへの眼差し、JP THE WAVYとのコラボ……村上隆が見据える未来とは
当時ラップミュージックが置かれていた状況を整理するために、翌年の『Glastonbury Festival 2008』で起きた出来事に言及したい。2008年6月に行われた同フェスでは、ラッパーのジェイ・Zがヘッドライナーを務めた。これに対し、開催前からイギリスでは物議を醸していた。『AFPBB News』は2008年4月、ノエル・ギャラガー(Oasis)がBBCに語った言葉として、「ジェイ・Z? 悪いけどあり得ない。グラストンベリーにヒップホップはいらないね。間違ってるよ」と伝えている(※4)。また、同メディアは「ノエルの意見はファンの間で共感を呼んでいる」とも報じており、ロックスターの声に少なくない賛同者がいたことも明らかだ。 当時からカニエやジェイ・Zはヒップホップ界におけるスーパースターだったが、ポップミュージック全体から十全的に歓迎されていたわけではない。ところが今は、ケンドリック・ラマーの言葉を多くの人々が待ち望み、ポスト・マローンやトミー・リッチマンがヒットチャートを席巻している。その後も『Glastonbury Festival』ではロック至上主義や“ロックVSその他”のような構図が度々見られるが、ポップミュージックにおいてジャンルのパラダイムシフトが起きたことは否定できない事実のように感じられる。 逆境に打ち勝ったラッパーたちは“未来”を手に入れたが、村上の目論みもまた、ある意味では成就しているようにも見える。2023年8月にNetflixで公開された実写版『ONE PIECE』は、同社が発表した2023年下半期の視聴報告書(※5)によれば、シーズン1の総視聴時間は5億4190万時間を記録。週間ランキングでは世界1位に輝いた。中国・上海に本拠を置く株式会社miHoYoはACG(中国語圏における日本のAnime=アニメ、Comic=コミック、Game=ゲームの二次元文化/コンテンツにおける総称)からの影響を公言(※6)し、『原神』や『崩壊:スターレイル』などのヒット作を作り続けている。 かつてのオタクカルチャーは、現在ではすっかりメインストリームだ。「My Lonesome CowBoy」が発表された1998年と比較して、日本のサブカルチャーへの見方は随分変化したように思われる。だからこそ、今の10代、20代は、村上の作品群を筆者も含めたアラサー以降の年代の価値観とは異なる尺度で解釈する可能性がある。 では村上は今、何を見ているのだろうか? その答えのヒントとして、現在京都市京セラ美術館で開催中の大規模個展『村上隆 もののけ 京都』とJP THE WAVYの存在が挙げられよう。本展示会の5つめのセクション「もののけ遊戯譚」では、先の「HIROPON」など最初期のキャラクターが、NFTアートの考え方から生まれた絵画や立体として登場している。 村上はNFTについて、アメリカのファッションメディア『WWD』が2022年6月に公開したインタビューの中で、「リアルのアート作品とデジタルのNFTアート作品の対立や境界線といったものは意味がないと考えている」と発言した(※7)。物理的な距離がもたらす弊害や、自身の作品を展示するスペースにかかるコスト、そういったものを“フラット”にする機能として、彼はNFTに可能性を見出している。そして、フットワークの軽いJP THE WAVYは一足先にデジタル空間にも足を踏み入れていた。ホロライブ所属のVTuber・Mori Calliopeの「I'm Greedy」をプロデュースし、文字通りリアルとデジタルの境界を打破している。 最後に強調しておきたいのは、村上が一貫して表明しているスタンスだ。彼は、“残すこと”に時代を問わず心血を注いでいる。その志は、デジタルツインやメタバースが実装された世の中であっても変わっていないようだ。MNNK Bro.の「Mononoke Kyoto」のリリックの中に、〈死んだ後も世界中にずっと響く〉とある。やや唐突に現れるこのフレーズにこそ、村上の情念が宿っている気がするのだ。 いずれにせよ、現在の村上が思い描く“未来”がいつ訪れるのかは我々に知る由もないが、その断片は見え隠れしている。それは今後も様々な作品となって、我々の前に現れ続けるだろう。今は“京都に集まる魑魅魍魎”が重要なヒントをくれそうだ。 ※1:https://artnewsjapan.com/article/2124 ※2:https://www.theartnewspaper.com/2023/08/31/takashi-murakami-the-pop-artist-on-cartoons-capitalism-and-star-wars ※3:https://www.thenationalnews.com/arts-culture/art-design/2022/12/14/takashi-murakami-the-legendary-japanese-artist-who-broke-all-the-rules/ ※4:https://www.afpbb.com/articles/-/2378591 ※5:https://about.netflix.com/ja/news/what-we-watched-the-second-half-of-2023 ※6:https://jp.ign.com/genshin-impact/47237/interview/20 ※7:https://www.wwdjapan.com/articles/1375313
Yuki Kawasaki