数年後にEVはガソリン車なみの価格になる? バッテリー価格の下落で加速する電動モビリティの近未来
EVは踊り場を脱して再び成長基調に戻るのか。欧州では2カ月連続でプラス成長だが・・・
踊り場と言われて久しいEV市場、自動車メーカー各社が戦略の見直しを迫られているなか、EVを始め電動モビリティに復調の兆しも見えてきた。直近の欧州新車販売動向、米ゴールドマン・サックス社が発表したレポート、そして次世代バッテリー事情などを交えて今後の動向を俯瞰してみた。 【写真】2026年の発表が期待されているフォルクスワーゲンの新型コンパクトEV 踊り場にあると言われるEV市場、なかでも脱炭素の急先鋒だったEU域内において沈滞していたEVの販売台数が回復の兆しを見せ始めた。欧州自動車工業会(ACEA)が2024年11月21日に発表した10月度の欧州主要31カ国(EU/UK/EFTA)における乗用車新車販売台数は、前年同月並みの104万1000台だったが、不振と言われているEVが約7%増(16万9525台)となった。伸び率では史上最高を記録した2024年9月(21万3443台)に続いて2カ月連続で増加しており、回復基調にあることを示している。依然好調なのはハイブリッド車(HEV/PHEV)だが、こちらは前年同月比16%増の34万6000台だった。 この数字が物語るのは、エンジン搭載車の販売下降が続いており、電動車のシェアが着実に拡大していることだ。ちなみに欧州のEVシェアは16%を超えたものの、EU目標である2035年のエンジン車販売の禁止(※2024年3月に合成燃料利用のエンジン車は2035年以降も容認する方針を表明)はこのままだと達成できそうもないのだが。 欧州では、車両価格が2万5000ユーロ(約400万円)を切ることがEV普及の分水嶺と言われている。それを実現するのが、車両価格の3~4割を占めるといわれるリチウムイオンバッテリーである。その価格が現在よりも下がるならば、車両価格も下がって普及に弾みがつく。2035年問題も穏便に片が付くかもしれない。
リチウムイオンバッテリーの価格下落が電動モビリティ普及を後押しする
EVなど電動車の価格に大きな影響を与えるのがバッテリー価格の動向だ。これに関しては、2024年10月7日に米ゴールドマン・サックスが投資家向けに発表したレポートが興味深い。この報告書によれば、リチウムイオンバッテリーの価格下落が続いており、2026年にはEVの価格水準はガソリン車とほぼ同等になるという。バッテリー価格の下落が続くという点では、HEV/PHEVにも影響はあるだろう。 レポートによれば、現在のリチウムイオンバッテリー平均価格は1kWhあたり111ドル(約1万7000円)前後。2023年は149ドル(約2万3000円)/kWhだった。かつて2011年は780ドル(約12万円)/kWhもしたことを考えれば。このまま下落が続けば2026年には82ドル(約1万2600円)/kWhになり、まさに隔世の感がある。さらに10年後には64ドル(約9800円)/kWhまで下がると予想している。 このまま下落傾向が続くならば、2026年にはガソリン車とEVの製造コストはほぼ同等になり、2035年前後にはガソリン車よりも安くなるというのが本レポートの主張だ。それが実現するかは今後さらに増加するSDV関連の投資も考慮しなければならないが、少なくとも現在の値付けより割安感がでるのは間違いないだろう。 また2020年代後半には全固体電池の搭載も始まる。こちらは実用化から間もないため当初は量産できずに高コストとなり、リチウムイオンバッテリーの平均価格を一時的に押し上げる可能性もある。ただし、その開発に携わる自動車メーカー/バッテリーメーカーは、いずれも2030年以降には量産化されて普及が加速=価格の下落を予想しており、現在のいわゆる液系バッテリーから徐々に置き代わっていくと考えている。 さらに、現在は中韓メーカーが事実上独占している比較的安価なLFP(リン酸鉄)リチウムイオンバッテリーも、2020年代後半には日本をはじめ世界各国で量産が開始される。これがリチウムイオンバッテリー全体の平均価格をさらに押し下げる。結果的に、EVはもちろん現在人気のHEVやPHEVの価格を下げることにつながるかもしれない。 その影響はあらゆるモビリティにも波及する。身近なところでは電動アシスト自転車や電動バイク、さらには「空飛ぶクルマ(eVTOL)」など、電気を動力源とするあらゆるモビリティの価格抑制につながるだろう。多くのドライバーがEVの購入をためらう最大の理由として「割高感」を挙げる。しかし、あと数年たてばそれは解消され、残るのは各国の電力や住宅事情も含めた充電インフラ次第ということになるかもしれない。ともあれ、電気を使う「移動」が特別な体験ではなくなる日は、想像以上に早いのかもしれない。