「正直限界があるのかさえ分からない」メルセデスAMG GT 63にモータージャーナリストの高平高輝が試乗 底が知れない不気味さがある!
秘めた獰猛さがひしひしと感じられる!
AMG SLのクーペ・バージョン的な立ち位置に生まれ変わった新型AMG GT。パッと見は先代のイメージを色濃く残すが、中身の進化は著しい。都内近郊のショート・トリップだったが、AMGのトップモデルの実力を垣間見た。モータージャーナリストの高平高輝がリポートする。 【写真39枚】キープコンセプトながら中身の進化は著しいメルセデスAMG GT 63の詳細画像を見る ◆中身は一新 長大なボンネットの先端に低く構えた縦バーの“パナメリカーナ・グリル”、後ろに寄った小さなキャビン、力強く大胆に張り出したフェンダーなど、相変わらず獰猛そのものの姿を見る限り、ほぼ10年ぶりにモデルチェンジした新型AMG「GT」とすぐには判別できないほどキープコンセプトだ。ただし言うまでもなく中身は一新されている。 全長は従来型よりも20cm近く伸び、同じく70mm延長された2700mmのホイールベースはAMGブランドに移管され3年前にデビューした新型SLと同一、そう新型AMG GTは新規開発のアルミ・スペースフレームをはじめとした基本コンポーネンツの多くをSLと共用しているのだ。 その拡大分を生かして、新型GTでは+2のリア・シート(ただしSL同様身長150cm以下の制限が付く)をオプションで選択することができる。その場合はバックレストを倒すことでラゲッジルームの容量を標準状態の321リッターから675リッターに拡大することができるという。GTレーシングカーさながらの攻撃的なルックスでありながら、実用的なラゲッジルームも備える4人乗りクーペとはこれいかに、と驚くばかりだ。ほんの少しだけラグジュアリー寄りに、かつ実用的なGTを目指したと見ることができるだろう。 長いボンネットのバルクヘッド寄りに積まれるのは、AMGの象徴ともいえるM177型4リッターV8ツインターボである。今や「63」を名乗りながら2リッター4気筒ターボを搭載するモデルも存在するが、AMGの63といえばやはりV8である。いかにF1由来の電動ターボチャージャーと強力なモーターを組み合わせたとしても、AMGに4気筒では物足りないという世界中の顧客の声を受けてメルセデスAMGも方針を修正するという噂が流れているほどだ。 2基のターボをVバンクの内側に詰め込んだホット・インサイドVレイアウトのAMG謹製V8は585ps/800Nmを生み出し、トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを備えた9段ATのスピードシフトMCTを介して4輪を駆動する。 パワースペックは既に従来型の最硬派モデル「AMG GT R」(585ps/700Nm)と同等以上だが、以前ほどレーシングカー的な構成ではない。同じエンジンファミリーながらこれまで搭載されていた従来のM178型はドライサンプ式で、ギアボックスもリア・デフと一体化されたトランスアクスル方式を採用していたのだ。 ◆AMGの意地とプライド 新型GTは新たに可変トルク配分の「4マチック+」システムを搭載していることも特徴だ(日本仕様は634マチック+のモノグレード)。0-100km/h加速は3.2秒(最高速は315km/h)というから、従来型GTRの3.6秒と比べてもその違いは明らかだ。大きく重くなった(4WD化などによって200kg以上増加)にもかかわらず、である。一般道でそんなとんでもない突進力を試すことはできないが、コンフォート・モードで首都高を流していても秘めた獰猛さがひしひしと感じられる。 硬質で緻密だが、まったく荒々しくなく融通無碍にパワーを吐き出すV8ツインターボの息吹は格別である。滑らかではあるが、明確で切れのいいV8のビートを知れば、4気筒では物足りなくなるのも道理というものだ。さらに21インチ(鍛造アルミホイールとともに標準装備)の巨大なタイヤを履きながらも、乗り心地は決して、少なくともドライブモードを「スポーツ+」や「レース」に切り替えない限りはスパルタンなものではない。油圧アクティブスタビライザーを備えるAMGアクティブ・ライドコントロール・サスペンションやリア・ステアリング、電子制御LSDなどを総動員した新型シャシーの面目躍如である。 もちろん、どこでどう振り回したら不安定になるのだろう? と思うほどハンドリングも盤石だ。以前のように長いノーズが狙った通りにインを向くのを確かめてコーナリングするというより、気づかないうちに正確なラインに乗っているかのようで、正直限界があるのかさえ分からない。いかにも武闘派の雰囲気は薄れたものの、底が知れない不気味さにAMGの意地とプライドを感じたのである。 文=高平高輝 写真=メルセデス・ベンツ日本 ■メルセデスAMG GT 63 4マチック+クーペ 駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4730×1985×1355mm ホイールベース 2700mm トレッド 前/後 1680/1685mm 車両重量(車検証記載前後軸重) 1940kg(前1060/後880kg) エンジン形式 V型8気筒DOHC32Vツインターボ 総排気量 3982cc ボア×ストローク 83.0×92.0mm 最高出力 585ps/5500-6500rpm 最大トルク 800Nm/2500-5000rpm 変速機 9段AT サスペンション形式 前後 マルチリンク+コイル ブレーキ 前後 通気冷却式スチール・ディスク タイヤ 前/後 295/30ZR21 102/305/30ZR21 107Y 車両価格(税込) 2750万円 (ENGINE2024年11月号)
ENGINE編集部