「流行はこれからが本番」 過去10年で最大の流行「マイコプラズマ肺炎」とは 知っておきたい感染経路、症状、予防・治療法
「咳が続くのですが、マイコプラズマ肺炎ではないでしょうか」 外来診療をしていると、このような質問を受けることが増えた。連日のようにメディアがマイコプラズマの流行を報じている影響だろう。 【グラフで見る】過去10年間で最大の感染者数を記録している「マイコプラズマ肺炎」 ■例年より流行が急拡大している 事実、マイコプラズマの流行は急拡大している。 下の図は、国立感染症研究所(感染研)のレポートだ。今年6月から感染者が増加し、過去10年間で最大の感染者数を記録している(※外部配信先ではグラフを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。
マイコプラズマの感染は1年中起こるが、特に多いのはまさに今、秋から冬にかけてだ。多くの専門医は、「マイコプラズマの流行はこれからが本番」と考えている。 そんななかで、筆者が患者さんとの対話で感じるのは、“マイコプラズマを怖がりすぎている”ことだ。 実は、多くの医師は「マイコプラズマ感染なら見落としても問題ない」と考えている。 その理由については後述するが、こうした医師とは対照的に、一般の多くの人はマイコプラズマに恐怖心を抱いているように思う。高橋謙造・ナビタスクリニック小児科部長は、「家族内に高齢者や小さな子どもがいる人に、その傾向が強い」と言う。
「高齢者がマイコプラズマに感染すると肺炎になって、“コロナのようにあっというまに亡くなってしまう”というイメージを持っている人が少なくない」そうだ。このあたり、医師と患者さんでは感覚が異なる。 だが、マイコプラズマは正しく知れば決して怖い感染症ではない。むしろ、むやみに怖がりすぎて「やってはいけない」ことをやってしまっている向きがある。 本稿では、その実態を解説したい。 ■そもそもマイコプラズマって何?
まずはマイコプラズマとは何かについて説明しよう。 マイコプラズマは「自己増殖可能な最小の微生物」といわれるユニークな存在だ。ウイルスは特定の宿主に感染しなければ増殖できないが、マイコプラズマは自力で増殖できる。このため、微生物学的にはウイルスではなく、細菌に分類される。 ただ、大腸菌など普通の細菌とは性格が異なる。特記したいのは、細胞壁を持たないことだ。 そのため、細胞壁の合成を阻害することで作用するペニシリンやセフェムなど、多くの抗菌薬はマイコプラズマに効かない。後述するように、マイコプラズマ感染を疑えば、特殊な抗菌薬を使うことになる。