税金を投入する価値ある?万博会場を歩いたら思ってもみない「声」が聞こえてきた 大屋根は「断片」、広がる更地…「国民不在の国家プロジェクト」
▽リング担当者の気概 リング屋上のデッキも歩ける構造で、上がると広大な敷地を一望できた。大阪湾が視界に入るほど見晴らしは良いが、手前に見えるのはほとんど更地だ。会期中、主に海外パビリオンが立ち並ぶはずの予定地だが、水たまりと雑草が目立つ。クレーン車は数台しかなく、作業員の姿はほとんどなかった。 日本国際博覧会協会(万博協会)によると、自前でパビリオンを建設する「タイプA」を希望する約50の国・地域のうち、敷地引き渡しにこぎ着けたのはイタリアと中国、トルクメニスタンの3カ国のみ。着工に必要な行政手続きもアイルランド1カ国が終えただけ(いずれも12月15日時点)で、工期がタイトになる中、海外パビリオン建設は依然として切迫した状況が続いている。 大林組の担当者は「世界一の無駄遣い」といったリングへの批判に対し、記者団にこんな思いを語った。「完成すれば心配も吹き飛ぶ。リングで世界を迎えるという気持ちでやり遂げたい」。帰り際、真意を打ち明けてくれた。「僕らも負けないぞと言いたかった」。断片が実際に一つの輪になるのは来年秋ごろ。三つの企業体が3分の1ずつ建ててつなげる。
大阪府の吉村洋文知事は、リングの意義をこのように語る。「多様な価値観が一つの輪になってつながるという万博の理念を体現する」。とはいえ、多様な価値観そのものであるパビリオンが姿を現さないことには、開幕への不安もなかなか払拭できないのが正直なところだ。 中心にぽっかり穴が開いたバウムクーヘンではなく、中身の詰まったホールケーキにできるかどうか。強まる万博不要論を結果ではねのけられるのか。帰りのバスに揺られながら、1年半後の「その日」に思いをはせた。