せめぎ合う利点と懸念…一本化近づくマイナ保険証いまだ利用率13% 情報集約で手続きや無駄な検査は省けるけれど、紛失や漏えいへの不安根強く
政府は12月2日に健康保険証の新規発行を廃止し、マイナンバーカードに機能を持たせた「マイナ保険証」に一本化する。手続きの簡便化や情報共有で無駄な検査・投薬を防げるなどの利点があるが、情報漏えいに対する懸念も根強い。 「先生、次からはマイナ保険証でないとだめ?」「今の保険証でも大丈夫ですよ」。日置市吹上でクリニックを開く内科医(70)は、患者とこんなやり取りをすることが増えた。 月に350人前後の外来患者は75歳以上が6割を占める。2022年秋にマイナ保険証の読み取り機を導入したが、今年7月で利用率は8%。大半が健康保険証で受診している。 政府は、マイナ保険証は医療費助成の受給者証や診察券にも使えるとアピールする。医師は今夏、患者としてマイナ保険証で県内複数の医療機関を受診したが、診察券との連携が済んでいる所はなかった。 「メリットと感じたのは高額医療の手続きが簡単だったことぐらい。自分の情報がどう扱われるのか不安な人は多い」と指摘する。
■□■ 政府は、行政のデジタル化の柱にマイナカードを位置付ける。だが16年のカード交付前に、日本年金機構や地方自治体がサイバー攻撃を受けたことが相次ぎ発覚。情報管理に対する不安が広がった。 普及を進めようと、20年に買い物などに使えるポイント付与事業を展開。申請が急増し、窓口となる自治体で他人の情報をひも付けするミスが多発した。 ポイント目的でカードを作った鹿児島市の女性(85)は紙の保険証を使う。「私たちには今の保険証が使いやすい。紙もカードも認めてくれたらいい」。カードを持たない同市の男性(72)は「ポイントは税金の無駄遣い。取得は任意のはずなのに、事実上強制ではないか」と憤る。 政府は最長1年間は現行保険証の使用を継続する。カードを持たない人には5年間の「資格確認書」を発行するが、保険証の廃止方針は変えていない。 ■□■ 保険証をはじめマイナカードの多機能化に期待する声もある。「どこまで便利になるか注目している」。同市の会社員女性(32)は、長女(1)の誕生後、職場に出す書類の交付手続きがカード1枚で済んだのに驚いた。
マイナ保険証は交付と同時にひも付け、長女の情報も入れる。「紛失や漏えいは怖いが、いろんな場面で使えるようになれば助かる」と話す。 全国のマイナカード交付率は9月時点で75.2%。一方、マイナ保険証の利用率は13.87%にとどまる。不安の声に政治はどう答えるか。一本化の期日は迫る。
南日本新聞 | 鹿児島