天音かなた、憧れの林原めぐみに作詞術と人生を学ぶ 「私の中に蓄積されている膨大な時間が言葉になっている」
ホロライブプロダクション所属のVTuber 天音かなたの新連載「天音かなたは音楽を学びたい!」第3回のゲストは、声優 林原めぐみが登場。同連載は、自身でも楽曲制作を行う天音かなたがホストを務め、様々なアーティストやクリエイターにインタビュー。音楽制作のプロセスやアーティストとしてのスタンスについて話を聞いていく。 【画像】天音かなたと林原めぐみ 林原めぐみは『新世紀エヴァンゲリオン』(綾波レイ)、『名探偵コナン』(灰原哀/宮野志保)、『SHAMAN KING』(恐山アンナ)など、知らない人はいないであろう名キャラクターの声を多数担当するレジェンドだが、1989年の『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』のイメージソング「夜明けのShooting Star」から歌手活動を行う声優の先駆けとしても活躍。また、MEGUMI名義で数多の楽曲の作詞を手掛けている。 本インタビューでは、林原めぐみの歌手活動や作詞方法についてトークする……予定だったが、いつの間にか天音かなたの人生相談(?)のような展開に。大ファンである林原めぐみの前で大緊張している天音の様子を想像しながら、林原の最新シングル『Gathering』の制作秘話や作詞術を懸命に取材している本稿を楽しんでもらいたい。(編集部) ■「呼び出されていなかったら、私は今も自分名義では歌っていない」(林原) 天音かなた(以下、天音):今回はとても貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。私はこれまで林原さんの歌やお声やお芝居をたくさん浴びて生きてきて、いろんな場面で元気づけられたり、支えていただいたりしてきました。なので、本当に本当にめちゃめちゃ緊張しております! 林原めぐみ(以下、林原):こちらこそ光栄ですありがとう。ちなみにかなたさんはどの曲が好きですか? 天音:『シャーマンキング』の……。 林原:「Over Soul」? おー、そこが入口? 天音:そうなんです! そこからラジオで『(林原めぐみの)Tokyo Boogie Night』(TBSラジオ)もめちゃくちゃ聴かせていただいていて。 林原:実は「Tokyo Boogie Night」は今度、放送1700回を超えたんですよ。大晦日に生放送もやりますのでよかったら聴いてみてください。 天音:絶対、聴かせていただきます! 今回はお聞きしたいことがたくさんあるのですが、まずは歌手として30年以上のキャリアをお持ちになっている林原さんの転機や、特に強く印象に残っている曲をお伺いしたいです。 林原:転機も何も、「夜明けのShooting Star」という曲を最初に歌うことになったこと自体が大きなことでしたよね。『機動戦士ガンダム0080(ポケットの中の戦争)』というOVAアニメの購買イベントをやる際に、主題歌を歌ってらっしゃった椎名恵さんが登壇できなかったので、その代わりにヒロイン役の声優をやっていた私のところにお話が来たんです。で、歌えるかどうかのテストをするためにレコード会社に呼ばれたんですけど、そのとき私は40度近い熱があり、鼻水ずるずるな状態で。だからもう「よろしくお願いします! 頑張ります!」みたいな感じではなく、早く帰りたい一心で「はいはいはい」みたいな感じで歌ったんです(笑)。そうしたらね、「落ち着いてて根性がある」「この子はおもしろい」みたいなことになり、あれよあれよという間にオリジナル曲を作っていただくことになって。それが林原めぐみ名義として初めての曲「夜明けのShooting Star」なんですよね。あのときレコード会社に呼び出されていなかったら、私は今も自分名義では歌っていなかったと思います。 天音:えー、そうなんですか! 確かに過去のインタビューを拝見しても、当時は歌手活動に対してあまり積極的ではなかったとお話されていました。そのお気持ち、意識が変わった瞬間もあったんですか? 林原:意識は今も変わってません。 天音:え! では、今も積極的ではない? 林原:はい。主題歌を歌う人止まり。それで良い時代でしたし(笑)。ライブツアーもやっておりませんし。ただ、90年代前半くらいかな。私は元々アニメが好きでよく観ていましたけど、そこで流れる主題歌やエンディング曲が、アニメ自体とリンクしていないような感覚になることもあって。アーティストのプロモーションの一環としてアニメ主題歌が存在しているような。そのことに対し、もっとよりアニメ作品にリスペクトを持った人の歌のほうがいいんじゃないかなーという気持ちになっていたので、自分で詞を書くということに対しての意識は活動の中で変わっていったところではありますね。 天音:林原さんが“MEGUMI”名義で書かれる歌詞は、アニメ作品にものすごく寄り添っていますもんね。「Over Soul」にしても、最初はどなたが作詞をされているか確認することなく、いちファンとして「めちゃめちゃ『シャーマンキング』に寄り添った最高の曲だぜ!」みたいな気持ちで聴いてたんですけど、後々、林原さんが歌詞を書かれていることを知ってめっちゃ驚きました。「素晴らしすぎる!」って。 林原:私は自分で歌うときも、歌詞を書くときも、その作品を好きな人が聴いてくれれば、それでいいと思っているんですよ。マーケティング的には、その作品のファン以外の人、広く一般にも林原めぐみを知ってもらうという流れは徐々に高まってはいったけど、私自身は「私のことは知らなくていいので、作品と楽曲をセットでよろしく!」みたいな感覚でずっとやっています。だから積極的ではないというのは、自分が作品よりも前に出るアーティスト活動に対して、ということですね。私の歌は基本的には作品ありきですから。 天音:なるほどー。でも、林原さんの楽曲にはアニメタイアップがついていない曲もありますよね。そこには林原さんの素が出ているようにも感じます。 林原:そういった曲は、アルバムの中で歌っています。私にとってのラジオという場所が担っている役割と同じだと思うんですよね。ラジオにはネタや面白い日常も届くけど、いろいろな悩みを抱えた方からのお便りも届くんです。それらに対して素の私が伝えられることってなんだろうと考えながらいつもお話させてもらっていて。ノンタイアップの曲に対しては、それと同じ感覚で向き合っている感じかな。「ちょっと気持ちが下を向いてたけど、今日は天気だから一歩外に出てみようかな」と思ってもらえるように、ちょこっとだけでも背中を押せるような、聴いてくれる人の生活に少しでも役立てるような曲になればいいなと思いながら歌っていますね。アニメの主題歌だったりすると、やっぱり愛と勇気、正義と友情がど真ん中に来るので、ちょっと背中を押すというよりは、転んでケガして突っ伏してる人をズルズル引きずってでも前に連れていかなきゃいけなかったりするじゃない(笑)? 天音:あははは。確かにそうですね(笑)。 林原:アニメの曲はそれが一つの役割だったりもするから。だからタイアップがついていない曲の場合はもうちょっと日常に寄り添って、みなさんにとってのバンドエイドぐらいになったらいいかなっていう気持ちで詞を書いているところがありますね。