女性当選最多も、27府県で「ゼロ」◆偏りの理由は?超党派議連・中川正春氏に聞く【衆院選2024】
◇「呼び水」のクオータ制導入を
中川氏が女性の政治参画を後押しする活動に携わるようになったきっかけは、旧民主党の野田政権で2012年、男女共同参画の担当大臣を務めたことだった。女性活躍の国際会議に出席した際、ヒラリー・クリントン米国務長官ら他国の出席者は全員女性で、男性は中川氏ただ1人。「自分が逆の立場になってみて、女性が男性ばかりの場で発言することが、いかにプレッシャーがかかるのか分かった」と振り返る。日本は政治分野での女性進出が遅れていると痛感し、帰国後は政党内で議員候補の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」導入を各党に働き掛けた。 その後、「掛け声だけでは進まない」と、具体的な法制化を検討する「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」を超党派の議員で立ち上げ、会長に就任。候補者の男女均等を目指す理念法と、クオータ制を組み込んだ公職選挙法の改正を検討した。 候補者の男女均等を目指す「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」は実現にこぎ着け、2018年に施行された。しかし、比例代表の名簿を男女別にし、惜敗率に応じて男女を交互に当選させていくクオータ制のほうは、原案段階で反対する党もあり、実現しなかった。 女性議員の中にも、クオータ制導入に反対する意見があったのも残念だったと振り返る。「実力で当選してきたから、制度を入れたら『議員の質が悪くなる』という思いがあったのかもしれない。ただ、社会的に女性には制約があるのは事実。政治分野でも女性比率が30%を超え、影響力を持ち始めることで制度改革に結びついていく。クオータ制はそれまでの呼び水であって、そうでもしないと日本は低空飛行のまま変わらない」と首を振る。 ◇「女性のため」ではない 中川氏が「低空飛行」と指摘したように、世界経済フォーラムが各国の男女平等度を評価した「ジェンダーギャップ指数」(2024年版)の政治分野を見ると、日本は146カ国中113位。主要7カ国の中では最下位で、アジアでも韓国、中国を下回る状況が続く。1位はアイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランドと上位は北欧の国が並ぶ。 中川氏は数年前、北欧の議員と交流した際に「女性の社会進出や政治参加は、女性のためだけに進めるものではない」という考えに感銘を受けた。北欧の議員の話では、北欧でも40~50年前は男女均等には遠い状況だったが、女性の社会参画を進める制度をつくり、現在は男女同数をほぼ実現しつつある。7時間労働や育児休暇といった、最初は女性のために進めた制度改革は、結果的に男性にも恩恵をもたらすことになった。 中川氏は「意識改革が進み、男性側も仕事と家庭、自分のやりたかったことの両立ができるようになった。社会のステージが成熟型へ引き上がっていったことを彼らは実感したのだと思う」と語る。「男性のための改革でもある」という観点で見れば、「日本はもっと頑張れるんじゃないかと思った。男性の立場から、一生懸命説得したが、『中川さん、分かるけれど、そんな理想で片付けられる話じゃないよ』と言われちゃって、なかなか難しかったね」と道半ばの現状に悔しさをにじませた。 ◇国会改革にもジェンダー視点を 先の国会では、クオータ制の導入とは別に、国政選挙で女性候補の割合が少ない党の政党交付金を減額する内容を盛り込んだ政党助成法改正案を準備していたが、自民党の裏金問題に端を発した政治資金の議論で国会が紛糾し、提出を断念した。 今回の衆院選を機に議員引退を決めていた中川氏にとっては、最後の大仕事でもあったが、果たせずに政界を去ることに。「選挙モードに突入してなかなか各党の議論が深まらなかった。クオータ制導入と政党助成法改正は今後も議連を中心に継続して取り組んでほしい」と仲間に志を託した。 政治家のジェンダー意識の低さも気がかりだ。列国議会同盟(IPU)が作成した議員のジェンダー意識を自己評価するアンケートを2022~23年に衆参両院で実施したところ、男女で顕著な差がみられたという。「女性は男女の偏りに素早く反応するが、男性は女性議員が少ないということを意識していない」と話し、ジェンダー視点で国会改革を進める小委員会の必要性を訴えた。 記者が国会の議論を見ていても、選挙や他の重要課題が優先され、ジェンダーの課題は後回しになっている印象を受ける。中川氏にそう投げ掛けると、「そうだと思う。例えば、防災は、今やどの政策を考える上でも外せない大事なテーマとなった。本当はジェンダーもそこまでいかないといけないが、なかなか主流とならない。政治家の意識に加えて、政策にも省庁横断的にジェンダーの視点が入っていくべき。最終的にはそれが目標だ」と語った。