第2期トランプ「中国叩き政権」発足が現実味を増す中で、中国が打ち出した対抗策「トランプ包囲網」の中身
トランプが放った興味深い「3つの発言」
トランプ大統領のもう一つの「作戦勝ち」は、男女二人の司会者から、連邦議会襲撃問題や自身の有罪問題、地球温暖化問題や社会保障問題など、手痛い質問や苦手分野の質問を受けても、ほとんど次の3つに問題を転化し、それらを繰り返し述べたことだ。1)不法移民の流入を阻止する、2)減税を断行して経済を活性化させる、3)ウクライナ戦争など世界の戦争をストップさせる。 その裏返しで、この3点について、バイデン大統領を激烈に批判した。1)不法移民を大量に入れて犯罪を増やし、黒人やヒスパニックの職を奪った、2)増税して経済を停滞させ、激しいインフレを招いた、3)ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争を起こした。 3)は、バイデン大統領の直接の責任ではもちろんないが、トランプ前大統領は興味深い発言を連発していた。 「アフガニスタンからアメリカ軍を撤退させたことで、プーチン大統領がウクライナ侵攻を決めた」 「私が大統領を続けていたら、そもそもプーチン大統領はウクライナに侵攻しなかったし、ハマスはイスラエルを襲撃しなかった」 「金正恩、習近平、プーチンは、彼(バイデン大統領)のことを恐れていないし、敬意も持っていない。アメリカの威厳が損なわれている」 常々、「トランプ発言」に問題が多いのは周知の事実だが、この3つの発言については、私も納得できた。まさにその通りだと思った まずアフガニスタンだが、2021年8月、バイデン政権はアフガニスタンからアメリカ軍を完全撤退させた。2001年に起こった「9・11事件」で、当時のジョージ・W・ブッシュJr.政権は、アフガニスタンのタリバン政権が首謀者のオサマ・ビンラディン師をかくまっているとして、戦争を起こした。そしてタリバン政権を武力で転覆させ、「民主化した親米政権」を樹立させた。 大国の戦争で難しいのは、開戦よりも勝利後の撤退だ。バイデン大統領は2021年4月、「今年9月11日までに完全撤退する」と宣言。事実、8月31日に「戦争終結」を宣言した。20年にわたるアメリカ史上最長の戦争だった。そしてアフガニスタンは、アメリカが支配する前の野蛮なタリバン政権に逆戻りした。 この時、撤退する理由として、「アメリカ兵の犠牲をこれ以上出せない」「インド太平洋地域(中国対策)に集中する」ということが言われた。一見すると、どちらも正論に聞こえる。 だが、「バイデン政権は戦争をしない」と判断したロシアは、ウクライナへ侵攻。また、タリバン政権は、後述する「内政不干渉」を掲げる中国を頼り、アフガニスタンは「中国の勢力圏」と化した。 トランプ前大統領の2番目の発言だが、ウクライナ戦争に関して、私はこれまで、7人のロシア政治の専門家(日本人5人、ロシア人2人)に、「もしもトランプ政権が継続していたなら、プーチン大統領はウクライナ侵攻を断行しただろうか?」という質問をぶつけたことがある。そうしたら7人全員が、「トランプ政権ならやらなかっただろう」と答えた。 理由も7人ともほぼ同様で、「アメリカの報復が予測できないから」。つまり、バイデン政権はプーチン政権に舐(な)められているわけで、トランプ大統領が指摘した通りなのだ。 ちなみに、そのうち一人のロシア人は、プーチン大統領に数回会ったことがあるというので、「プーチン大統領はバイデン再選とトランプ復活のどちらを望んでいるか?」と聞いてみた。すると明快に答えた。 「それは、バイデン大統領の再選に決まっている。ロシアに対して手ぬるいから。プーチン大統領が個人的に気が合うのは、トランプ前大統領の方だが、彼は予測不能で、大変手強い相手だ」 この発言は、トランプ大統領の上述の3番目の発言に通じるところがある。おそらく金正恩国務委員長は、トランプ復活を願っているのではないか。何と言っても、3度も握手し、会談しているのだ。 それがバイデン政権になってからは、完全無視に遭っている。これをバイデン政権は、「戦略的忍耐」と呼んでいる。バラク・オバマ政権が使っていた外交用語だ。 一方、習近平主席は、私は確信を持って言えるが、バイデン再選を望んでいる。それは、プーチン大統領と同様の理由からだ。逆に言うと、習近平政権は、トランプ復活を恐れている。再登板するや、「予測不能の嵐」が吹き荒れそうだからだ。ゴリゴリの予定調和的な社会主義政権である習近平政権は、「予測不能」ということを最も嫌う。 一例を示そう。トランプ政権時代のジョン・ボルトン大統領安保担当補佐官が、著書『ジョン・ボルトン回顧録』(朝日新聞出版、2020年)で、米中首脳会談の様子を一部、暴露している。2018年12月1日、ブエノスアイレスのG20(主要国・地域)サミットの合い間に行われたトランプ・習近平会談のエピソードだ。 〈 習近平がトランプのことを何とすばらしい人物かと大げさに褒め上げて会談がスタートした。(中略)その後、米国は選挙が多すぎるがトランプ大統領に退任されると困る、と習が言う(中略)米国は現在の関税を撤廃すべきだと習は主張した。それが駄目なら、少なくとも今後は新たな関税を追加しないと約束してほしい、と 〉 このように、「予測不能な大統領」を畏(おそ)れる習近平主席の様子が、活写されているのだ。 第1期トランプ政権で安保担当大統領副補佐官を務め、第2期が実現したら要職に就くことが見込まれるアレクサンダー・グレイ氏が、2月に来日した。私は短時間お目にかかったが、グレイ氏はこう断言した。 「第2期トランプ政権は、一言で言えば『中国叩き政権』になる。われわれは同盟国や同志国とともに、中国を徹底的に叩く。いまの(バイデン政権の)ように、甘いやり方ではなくだ」