不安の声を覆した『嘘解きレトリック』、月9ドラマがひさびさの称賛を集める理由
長年続くドラマの伝統枠であることから、その視聴率や内容について何かと話題になるのがフジテレビの月9だ。この秋は『嘘解きレトリック』がスタート。業界内やネットでは早くも称賛する声が多い。その理由についてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。 【写真】スーツ姿で爽やかさが際立つ鈴鹿央士。制服姿の松本穂香なども
* * * 今秋、業界内で「こんなに評判のいい月9はひさびさではないか」という声があがっているのが『嘘解きレトリック』(フジテレビ系、月曜21時)。 Xの書き込みや関連記事のコメント欄にはおおむね称賛が並び、ドラマのレビューサイトでもNHKの『宙わたる教室』(火曜22時)や『3000万』(土曜22時)、TBSの日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(日曜21時)や『ライオンの隠れ家』(金曜22時)らと競い合うようにトップクラスをキープしています。 放送前は鈴鹿央士さんと松本穂香さんの主演経験の少なさや、「昭和初期のムードを民放が再現できるのか」などと不安視する声が少なくありませんでした。しかし、はじまってみたら、それらの不安を払拭する好意的な声が大半を占めています。 最近の月9ドラマをさかのぼっていくと、今夏の『海のはじまり』、今春の『336日』、今冬の『君が心をくれたから』、昨秋の『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ』、昨夏の『真夏のシンデレラ』、昨春の『風間公親-教場0-』、昨冬の『女神の教室~リーガル青春白書~』、一昨秋の『PICU 小児集中治療室』、一昨夏の『競争の番人』、一昨春の『元彼の遺言状』……約3年前の一昨冬に放送された『ミステリと言う勿れ』以来の評判と言っていいかもしれません。 なぜここまで『嘘解きレトリック』の評判がいいのでしょうか。
時代物では珍しい親しみやすさ
『嘘解きレトリック』のコンセプトは、貧乏探偵・祝左右馬(鈴鹿央士)と嘘を聞き分ける能力を持つ助手・浦部鹿乃子(松本穂香)によるレトロミステリー。舞台は昭和初期であり、物語は追われるように故郷を出たものの空腹で行き倒れた鹿乃子を左右馬が助け、彼女の能力を知り探偵助手として受け入れるところからスタートしました。 近年放送された月9の中で評判がいいのは、当作の柔らかく優しい世界観が月曜夜の視聴にフィットし、アンチが少ないからでしょう。登場人物も昭和初期の街並みも愛らしく描かれ、時を超えた親しみやすさを感じさせられます。 刑事事件を扱ったドラマが殺人事件ばかりに偏り、不穏なムードに終始しがちな中、『嘘解きレトリック』はまったく異なるベクトルの作品。不穏さは抑えめで、各話の事件も子どもの失踪、令嬢の誘拐偽装、財布の窃盗、人形屋敷の不審死など多彩かつ緩急がつけられています。 助手・鹿乃子の嘘を見抜く力をきっかけに、探偵・左右馬の推理+ハッタリで事件を解決していくテンポも上々。さらに放送を重ねるごとに2人の一体感が育まれていく関係性も柔らかく優しい世界観の理由でしょう。 そんな世界観を作り上げているのは、フジテレビが誇るレジェンド演出家たち。『白い巨塔』『ガリレオ』『任侠ヘルパー』『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』などを手がけた西谷弘監督をチーフに、『東京ラブストーリー』『ひとつ屋根の下』『ロングバケーション』『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』などを手がけた永山耕三監督、『29歳のクリスマス』『王様のレストラン』『HERO』『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』などを手がけた鈴木雅之監督らが集結し、若いダブル主演の魅力や昭和初期のムードを引き出しています。 昭和初期を描いた今作のような時代物は本来NHKが得意としているジャンルですが、同局の作品は時間とお金をかけて古さや汚れなどのリアルを追求した本物志向。一方、ノスタルジーを感じさせながらも、愛らしくまとめた当作の映像は若年層にとっても見やすいものであり、評判のよさにもつながっているのでしょう。時に、同じ西谷監督が手がけた『シャーロック』を思い出すバイオリニストが登場するなどの遊び心も含め、シリアスさを避ける配慮をところどころから感じさせられます。