違憲リスクもなんのその!? つばさの党逮捕でみせた警察のメディア戦略
注目は、翌29日の警察の動向だった。 通常、警察の選挙違反捜査は選挙期間中に証拠を固めて、証拠隠滅を防ぐために投開票翌日の朝とともに摘発に入るのが常道であるので、着手があるのではないかという観測がメディアや陣営関係者の間で流れた。 しかし、結果は何事もなく、高をくくったつばさの党は5月に入ると、テレビ番組で批判的なコメントをしたタレントの田村淳や、日本保守党関係者の自宅前で抗議街宣を行い、都知事選をにらんで活動を継続させていく。この間の警察の動向について、全国紙社会部デスクが解説する。「警視庁にとっては摘発の際に、表現の自由の侵害や政治弾圧という批判を浴びせられかねないことが障壁となっていたし、また、候補者やその陣営による選挙妨害容疑での立件の前例がなかったことから事件化には慎重でした。 幸い、動画で証拠は残っているので、拙速に進める必要はなかった。ただ、民主主義の根幹である選挙が妨害されるという重大な問題で模倣犯を生む恐れがあったことや、政治家ではない田村淳の自宅前でつばさの党が街宣を行い、活動を先鋭化していったことから、メディアの論調に細心の注意を配りながら立件へとかじを切って行きました」(全国紙社会部デスク) ■メディア引き連れガサ 事態が大きく動いたのが、5月13日。東京都千代田区にあるつばさの党の事務所や、黒川、根本氏の自宅に警視庁捜査二課の家宅捜索が入った。これに対し、つばさの党は同日夕に小池知事の自宅前で街宣を行い、その後も、桜田門の警視庁本部庁舎前で、「警視庁、小池の犬! ヘイヘイヘイ」と抗議した。 だが、この時点では、警察の着手は目の前に迫っていた。 「二課によるガサは、事前に新聞・テレビ各社が知るところとなり、カメラが待ち受ける中で行われました。二課がカメラの前で大々的にガサを売って、結局立件しないということはメンツが潰れるので絶対ない。 すでに公選法違反での逮捕を決めていて、立件に至った際に政治弾圧といった批判をかわすため、各メディアに恩を売るために情報を流したということです。そもそも、13日のガサの時点で黒川氏らを逮捕できたが、ワンクッション置いたのは、メディアや世論の動向を見極める狙いだったとみられます」(前出社会部デスク) ■人権派・朝日に配慮か そして16日には朝日新聞が朝刊で、黒川氏ら3人の立件を検討していると特ダネを打った。これにも、警視庁の戦略があると前出社会部デスクは語る。 「逮捕が確実視される中、どこの社も取材攻勢を強めていた。そして、とりわけ人権や公権力の政治への介入にうるさい朝日をのちのち黙らせるために、敢えて立件が近いことをリークしたと警視庁担当記者は語っています」(前出社会部デスク)そして、17日朝に黒川氏と根本氏、運動員の杉田勇人氏(39)の逮捕へと至った。今後の焦点は、黒川氏らが保釈等で都知事選までに社会に復帰し、また「ヘイヘイヘ~イ」と選挙活動を行うかどうかだが...。 「今回の逮捕は、彼らを都知事選においてシャバで選挙活動させず、『警察は生ぬるい』といった批判を候補者や社会から避ける狙いも含まれていることでしょう。補選に出馬した候補者や陣営から被害供述の調書を取ったり、動画の提供を受けているので、再逮捕で拘留を続けることでしょう。 もちろん、有罪が確定していないので黒川氏らの出馬は可能ですが、街宣を行えなければ手足をもがれたも同然です」(前出社会部デスク)裏金問題や経歴詐称などによる政治不信が渦巻く日本社会で、あだ花となったつばさの党。彼らが獄中から翼をはためかせて都知事選に登場することは不可能な情勢であろう。 文/大木健一 写真/時事通信、つばさの党YouTubeチャンネル