異常気象の危機に瀕する50の世界遺産を公表。観光や地域社会の福祉に深刻な影響を及ぼす可能性も
気候変動のリスクを分析する企業Climate Xが、最新の調査に基づき気候変動により深刻な被害が及ぶとされている50の世界遺産を発表した。調査結果において、各国の文化セクターにおける緊急対策の必要性が指摘された。 この調査には、今後100年にわたって、熱帯低気圧、猛暑、洪水など、さまざまな気候災害が世界遺産にどのような影響を及ぼすかを予測するモデルが用いられており、1223カ所にのぼるユネスコ遺産を全て分析したという。 気候変動の影響を最も受けやすいのは、9世紀に建設されたインドネシアの灌漑システム、スバックで、干ばつや猛暑、洪水の脅威に晒されているという。このほかにも、氷河時代に描かれた洞窟壁画が現存しているフランスのショーヴェ洞窟や、シドニー・オペラハウスも洪水や地滑りの対策に迫られている。 また、特に気候変動の影響を受けやすいとされている世界遺産は、2015年に世界遺産に登録されたエディンバラ近郊のフォース橋、スコットランドで初めて世界遺産に登録されたセント・キルダ、ニュー・ラナーク、そしてスタッドリー王立公園であり、いずれの世界遺産も沿岸洪水や地滑り、そして暴風雨の危機に晒されているという。 この調査結果を受け専門家たちは、気候変動対策に芸術・遺産部門の関与を深めるよう呼びかけている。 「この報告書は、すでに地域社会に甚大な被害をもたらしている気候変動の危険性を訴えています」 こう話すのは、慈善団体「Julie's Bicycle」のディレクターを務めるアリソン・ティッケルだ。彼女はアート・ニュースペーパーの取材に対して、文化における気候変動対策は極めて重要だが、見過ごされることの多い要素だと語っている。 また、エクセター大学の景観考古学者であるナディア・カラフは、こうした懸念に同調し、世界遺産が失われれば、経済的・社会的、特に観光や地域社会の福祉に深刻な影響を及ぼす可能性があることを指摘している。 関連する取り組みとして、ニューカッスル大学の遺産専門家たちは、気候変動がイギリスにある世界遺産に及ぼす影響を評価するための別個の調査に着手しており、ハドリアヌスの長城、ノース・デヴォンの生物圏保存地域、そしてユネスコ世界ジオパークに登録されているフォレスト・ファウルの3カ所が対象となった。社会課題を解決するためにイギリス政府が設けている「Shared Outcomes Fund」から180万ポンド(約3億4400万円)の資金提供を受けたこのプロジェクトは、危機に晒された地域を保護するために国内外でも通用する策を講じることを目的としている。 イギリスユネスコ国内委員会の会長を務めるジェームス・ブリッジは、この取り組みが世界的な遺産保護活動のモデルとなる可能性があると語り、こう続ける。 「専門家たちによって現在行われている調査は、対象となるそれぞれの世界遺産に合わせた解決策を模索することを目的としています。とはいえ、世界遺産のためだけでなく、一般利用できるような策を講じることで、イギリス国外の地域や住民たちにとっても有益な保護策を提供することができればと考えています」
ARTnews JAPAN