紫のDNAが刻み込まれたしなやかな偉才。広島ユースMF中島洋太朗は「いつも通り」の基準を上げ続ける
[5.19 プレミアリーグWEST第7節 広島ユース 3-2 名古屋U-18 安芸高田市サッカー公園] 【写真】松木玖生の衝撃スタッツにファン「こんなの初めて見た」「バケモン」「GKもしてた?」 ひとたびボールを持つと、そのビジョンは個人からグループへ拡大されていく。自分から隣の選手へ。さらに隣の選手へ。繋がっていくべき一連を瞬時に頭の中で弾き出し、1本のパスでスイッチを入れると、ピッチ上にはスムーズな攻撃が展開される。まるでその人には、最初からそうなることがわかっていたかのように。 「自分がたくさんボールに触って、ゲームを作るということはやらないといけないことだと思うので、そういう部分で今日は攻撃を組み立てる部分は悪くなかったかなと思いますし、守備でも行くところは行けていたので、全体的に悪くなかったかなと思います」。 サンフレッチェ広島ユース(広島)の頭脳にして、既にトップチームとプロ契約を締結している、しなやかな偉才。MF中島洋太朗(3年=サンフレッチェ広島F.Cジュニアユース出身)が有するシンプルな凄みは、この日のピッチの中でも際立っていた。 「開幕してから最初の方は良い形で連勝できていたんですけど、内容の方はあまりみんな納得はできていなかったと思いますし、その中で今は2試合勝ちがなかったので、今日は『連敗しないようにしよう』ということと、『良い試合にしよう』ということは話していました」(中島)。 今季のプレミアリーグWESTでは開幕4連勝を飾ったものの、東福岡高(福岡)に引き分けると、前節はヴィッセル神戸U-18(兵庫)に競り負けて今季初黒星。3試合ぶりの歓喜に向けて、中島もチームも必勝を誓ってホームゲームに挑む。 ただ、必要以上に気負うつもりはない。「もちろん自分がチームを勝たせないといけないですし、違いを出さないといけないのはわかっていますけど、『自分が、自分が』となり過ぎても良くないと思いますし、そこはうまく“いつも通り”を保ちながらやろうと思っています」。 心がけているのは“いつも通り”だと言うが、そもそもその“いつも通り”のクオリティが違う。この日は今季初の4バックを採用したことで、アンカー気味の位置でパスを引き出すことも多く、ボールに多く触りながら攻撃のリズムを創出していく中で、まずミスがほとんどない。 さらに“刺すべきポイント”も見誤らない。MF小林志紋(2年)が、FW井上愛簾(3年)が、時には右サイドバックのMF桝谷歩希(3年)が中央のギャップに潜ると、10番はすかさず縦パスをグサリ。そこからダイレクトパスが繋がり、スムーズな攻撃が構築されていく。 「去年からあれはやってきたことで、今シーズンはここまでそういった形があまり作れなかったんですけど、今日は後ろから前までうまく運べて、そこから押し込んでいくシーンが多かったと思うので、そこは良かったですね」(中島)。チームは先制されたものの、井上の2ゴールもあって逆転勝利。「今日は全体的にうまく行ったのかなと思います」と90分間を振り返った中島も、試合後は笑顔で3戦ぶりの白星をチームメイトと喜んだ。 既に昨年9月にトップチームとプロ契約を締結。本人も「練習はトップチームでやることが多いですけど、やっぱり試合に出る方が成長できるので、プレミアにもこういった形で出ることができて、成長するには良い環境でやらせてもらっているなと感じています」と語るように、その時に置かれた環境でさらなる成長への歩みを進めている。 「攻撃の部分ではトップの中でも自信を持ってできていますし、やれるという感覚もあるんですけど、自分の課題の強度だったり、守備の動きの連続性というところは、特に満田(誠)選手や川村(拓夢)選手から刺激をもらって、参考にしながら取り組んでいますし、そこは一緒に練習することで吸収していきたいと思います」。トップチームでポジションが重なるのは、まさにアカデミーの先輩たち。A代表にも選出されているタレントと切磋琢磨する日常が、刺激にならないはずがない。 今季はエディオンピースウイング広島で行われた、第5節のガンバ大阪戦でJ1デビューを飾ったものの、以降は5試合にベンチ入りしながら、“2試合目”のピッチが遠い。「ベンチに入ることは何度もあるんですけど、そこで出場機会をもらえないことが続いているので、トレーニングから試合に使ってもらえるようなパフォーマンスを出して、アピールしていかないといけないですし、今はJリーグの試合に出ることを目標にやっています」 とはいえ、ここでも必要以上に気負うつもりはない。「考えすぎたりすると自分の良さもなくなるかなと思いますし、人のことを気にしすぎても良くないと思うので、自分のことに集中してやっていきたいと思います」。軸に据えている“いつも通り”の基準を上げていくことだけが、Jリーグで試合に出るための条件だということも、もう中島はとっくにわかっている。 今季のトップチームでは、かつて父の浩司氏も背負った35番が中島に渡されている。「お父さんの存在もあって、自分を応援してくれたり、自分に期待してくれているサポーターの方がたくさんいるのは理解しているので、その期待に応えられるように頑張りたいと思います」。紫のDNAは幼い頃から自身の中に刻み込まれている。 以前、あるトップチームの選手が『洋太朗、メチャメチャ上手くないですか?』と驚き交じりに話していた言葉が印象深い。携えている才能は間違いない。あとはそれがプロのステージでも最適な形で解き放たれる時が来るまで、自分らしく地道に準備し続けていくだけ。18歳になったばかりの広島が育んだ偉才。きっと中島洋太朗という名前が今まで以上に多くの人へ知れ渡るのは、そんなに先のことではないはずだ。 (取材・文 土屋雅史)